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「脩くんを危ない目に合わせた奴は誰なのよ!! 答えなさい!!」
般若の様な形相に加え、テーブルを両手で叩きつける。道雄が宥めるも、恵美子はやめようとしない。
脩は背筋に冷水をかけられたように、血の気が引き過去の記憶に体が震えだす。
ふと、秋良が青ざめた顔が脳裏に過る。彼もまたこんな風に、心に刻みつけられた恐怖に震えていたのだろう。
それでも、脩を助けてくれたのだ。前回の過ちを繰り返さないためにも……。
「母さん……。 僕は世良家の人間だ」
震える唇を無理やり動かし、言葉を吐き出す。恵美子が手を止め、呆然とした顔で脩を見つめた。道雄も驚いたように目を見開いている。
「脩くん……何を言い出すつもりなの?」
恵美子の唇を戦慄かせ、ゆっくりと言葉を発していく。声音は柔らかいが、威圧感が含まれている。
まるで、脩に余計なことを言うなと牽制しているかのようだった。
「僕は……一人で向こうに帰って、いろいろ気付かされたんだ。兄さんは、僕たちをちゃんと家族として見てくれていた。目を背けて、現実と向き合ってこなかったのは僕たちの方なんだ」
恵美子の目が見開かれていく。さっきまで赤く上気していた顔が、みるみる青ざめていく。
「母さん、知ってる? 兄さんはちゃんと『母さん』と呼んでいたんだ。僕の前では、ちゃんと『母さん』って……確かにみんなの前では、名前で呼んでいるかもしれない……それでも、兄さんにとっては、本当の母親は母さんだけなんだよ」
確かに叔母さんも兄さんに愛情を注いでいたかもしれない。でも、産みの母親に勝るものはないはずだ。
「それなのに僕たちは……兄さんの気持ちを考えずに、目を背けてきた。捨てられたと思われても当然の事をしてきたんだ」
「清治は……なんて言ってたんだ……」
道雄も罪悪感を感じているのだろう。顔色が青ざめ、微かに唇を震わせていた。
「自分だけ残されて家族で上京したと聞いた時、捨てられたと思ったと……でも、いろんな人に接してきて自分の力を活かせてこれた。今は家族も出来て幸せだって……」
恵美子が嗚咽を上げて泣き出した。
ごめんなさいと何度も繰り返しながら、肩を震わせている。
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