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 営業回りを終えて、脩は部署に戻った。  突然、後ろから肩に手を回され頭を撫でられる。  とっさのことに呆気に取られていると「田端が戻ってきてよかったな」と耳元で囁かれる。  真壁だと分かり、この間のこともあってか少し戸惑ってしまう。 「はい。あの……いろいろとありがとうございました」  距離の近さに圧倒されつつも、真壁には心の底から感謝していた。 「それは構わない。あ、やべっ、田端がこっち見てる」 「えっ……」  真壁の茶化したような口ぶりに、脩は秋良の席に視線を向ける。秋良がこちらを見て苦笑いしていた。 「あーぁ、これからは世良にあんまり近寄れないな」  そう言い残すと脩の肩から手を離し、真壁は自分の席に戻っていった。  呆気に取られつつも、脩も自席に戻る。  真壁とのやり取りを見られた事が少し気まずく、秋良の顔を見ることが出来なかった。  就業時間になり、一緒に住んでいるのに別々で帰る のもどうかと秋良と一緒に帰宅する。  夕飯は秋良が作ってくれると、スーパーで食材を買うとマンションへと向かう。 「真壁先輩って……」  突然、秋良の口から真壁の名前が出たことで、脩の心臓が跳ね上がる。 「絶対先輩の事好きですよね」  淡々とした口調で言っているせいか、どこか冷たくも感じてしまう。 「そんな事ないよ。入社当時からあんなんだし、それに僕の指導係だったからいろいろ心配なんだろ」 「それにしても、距離近すぎですよ」  拗ねたような秋良の口調に、脩の頬が自然と緩んでいく。 「先輩……なに笑ってるんですか?」 「いや、別に」  マンションの部屋に着くと、秋良は早速キッチンで夕飯の支度をはじめた。脩も手伝おうと近くによるも 「シャワー浴びてきてください」と一蹴されてしまい、渋々脩はシャワーを浴びに浴室へと向かう。  シャワーを浴びて戻ると、テーブルにはサラダとオムライスが用意されていた。 「凄いな。料理が出来るなんて、羨ましいよ」  椅子に腰掛けつつ、脩は秋良が向かいに腰を下ろすのを待つ。照明に照らされた黄色い膜は、食欲をそそるように輝いている。 「味は保証できませんよ」  秋良が椅子に腰を下ろし、スプーンを手に取る。脩もスプーンを手に取り、オムライスを口に運ぶ。少し濃いケチャップの酸味が口の中に広がり、素直に美味しいと口にした。

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