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「これからは俺がご飯作りますから」
秋良が嬉しそうな顔で脩を見つめる。
「ありがとう。でも、秋良に負担をかけるのは悪いから僕にも教えてほしい」
「先輩、包丁持ったことあるんですか?」
「そりゃあ、あるよ……ただ、あんまり機会がなかっただけ」
恵美子が過保護なあまり、滅多なことがない限り触らせてくれなかった。今思えば、まともに触ったのは調理実習ぐらいかもしれない。
「母親が過保護な話したよな。包丁とか家事とか、あまりさせてくれなかったんだ。気づけば何でも、母親がやってたから」
鞄を運ぶこともだとは言えない。脩は何食わぬ顔で、スプーンを動かしていく。
「だったら、これからは俺が教えていきますから。ここでは俺が先輩ですね」
「そうだな。田端先輩」
悪戯ぽい笑みを浮かべ、脩は秋良を見つめる。秋良は何かを感じて、場を和ませようとそう言ってくれたのだろう。
「やっぱり先輩って呼ばれるのって、照れくさいですね」
「うん。僕も最初はそう思ってた。でも、来年は秋良も先輩になるかもな」
「そうですね……俺も世良先輩みたいな、良い先輩になりたいです」
秋良がサラリと言う褒め言葉に、苦笑いする。やっぱり秋良は出世するだろうなとぼんやり考えなが、最後の一口を口に入れた。
これから先もこうして、秋良の作った食事を取りながら他愛のない会話をしていくのだろうか。
脩は期待に胸を膨らませてしまう。
「先輩……好きです」
「うん。僕も好きだよ」
食事中に言うことではないが、悪くなかった。
「ずっと、一緒にいましょうね」
「もちろん。約束しただろ」
照れくさくても、秋良の目を見て微笑む。手を伸ばせば届く距離に秋良がいる。その事が幸せで、まるで夢を見ているかのようだ。
秋良も同じことを考えているのか、目元を赤く染め柔らかい表情を浮かべている。
前世での約束が今こうして、叶えることが出来たのだ。来世でも結ばれるように、約束しようと脩は心に決める。
「秋良。来世でもまた会おう」
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