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翌朝。
重たい足取りで登校した夏生は自分の教室前で朝っぱらから金縛りにあった。
正確に言うならば1Cクラスの前で壁に寄りかかって廊下に立っていた鷹栖にびっくり仰天して立ち竦んだ、のだ。
こ、ころされる、かも。
昨日、まさかの初キスにショックが大き過ぎて、速攻ダッシュで帰ったおれのこと、こらしめにきたんだ。
鷹栖先輩に殴られたら、ヤンキーに殴られたどころじゃない、一発で多分しぬ……。
鷹栖と目が合って、夏生は、どこかで「チーン」とご臨終の音色が鳴ったような気がした。
「夏生」
立ったまま器用に失神しかけている夏生の元に歩み寄った鷹栖は告げた。
「昼休み、裏庭来い」
それだけ告げると、俯きがちな下級生らが自然と左右に分かれて廊下中央に出来上がった通り道を堂々と去って行った。
何か武器っぽいもの一つでも持って来ればよかった。
でも、むりだ、おれなんかが鷹栖先輩に太刀打ちできるわけがない、すぐにキュッてされる、キュッて……。
「そもそも、武器っぽいものって何だろ……傘? 今日晴れてるし、傘なんか持ってきてないって……」
昼休み、ちょっとでも恐怖心を紛らわせるため独り言を連発しつつ夏生は向かった。
青く澄み渡った空の下、正午の清々しい風が吹き抜ける裏庭へ。
約束……というより一匹狼先輩からの一方的な命令をスルーするわけにもいかず、食べ損ねるのが嫌で母親お手製のお弁当を持参し、おずおずやってきた。
「お、お弁当持ってきたけど不謹慎だったかな、なめられてるって思われたらどうしよう、やっぱり置いてこよっかな、うん、そうしよ、う!!??」
せっかく持ってきたお弁当を教室に置いてこようと回れ右した夏生は真後ろにいた鷹栖にぎょっとした。
いつの間にやら易々と下級生の背後をとっていた上級生は、過剰なリアクションに不機嫌そうにするでもなく。
立ち竦む夏生の腕をとると学校生活において頻繁に寝床にしているベンチへ。
い、いつから後ろにいたんだろう、鷹栖先輩?
「武器ならシャーペンだって可だ」
うわーーーっ、結構前からいたっ。
「あ、あの、鷹栖先輩、昨日はすみませんでしたっ」
そもそもっ、いきなりキスしてきたソッチが悪いんですけどねっ。
「いや。俺こそ。急にあんな真似して悪かったな」
あ……わかってらっしゃる……それならいいんですけど、ハイ。
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