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先輩が本気だってわかった。
ビビリで臆病なおれのこと、真っ直ぐって、言ってくれた。
すごく嬉しい。
おれも先輩のこと……。
だけど、でも、あのですね、これはちょっと。
「んっ、先輩これむりですっ、絶対、誰か来ちゃいます……っ」
もしも先輩がいたら……と、万が一のため夏生はバスタオルをスクバに詰め込んで持参していた。
鷹栖が風邪を引いてはいけないと、生徒用玄関に一端避難し、びしょ濡れの体を拭いてもらおうと思った。
それなのに。
手渡そうとしたバスタオルは突っ返されて、いつ誰が来るかもわからない、ひんやりジメジメした靴棚の狭間で……鷹栖にめちゃくちゃキスされた。
「六時過ぎ、帰宅部はもう帰った、運動部はまだ練習中だ」
だから誰も来ない、一生懸命嫌がる夏生の耳元でそう囁いて、鷹栖は狼な本性を露にした。
自分より明らかに華奢な、平均体型にある下級生の抵抗をいとも簡単に捻じ伏せた。
自分と同じく日頃からあんまりセットされていない、手つかずの天然茶髪をバスタオルで包み込んで。
あっという間に夏生の唇を上下ともびしょ濡れにした。
「っ……ふゎ……」
なんですか、これ。
初キスの次が、こんな、こんな……ぬるぬるなキス……?
先輩の舌が、すごく、すごく……口の中でめちゃくちゃ動くから……い、息できないです……。
「んっっっ?」
か、噛まれた……っ下唇噛まれたぁ……っ。
「んぷっっっ」
舌……きすぎ……っはいってきすぎ……っ。
「ぷはっっ……せんぱ、ぃ、ほんと、誰か来たら、っ、んむーーーー……っ」
やっと離れたかと思ったら、また、すぐ、キス再開。
やっぱり息できない。
鷹栖先輩に食べられてるみたいだ。
丸ごと唇、ガブガブって……。
え。
あれ。
お、お尻……お尻触られてる……しかも両手で触られてる……。
おれもう鷹栖先輩についていけませんっっっ。
「ッ……夏生」
来ないと思っていた夏生が裏庭に来てくれた喜びで我を忘れていた鷹栖は、はたと、キスを中断した。
ぎゅうっと強く閉ざされた夏生の瞼に滲んだ涙を見、ようやく我に返った。
「っ……ううぅぅ……っ」
「夏生、泣くな」
「ふぇぇっ……お尻っ……おれのお尻さわりました、先輩ぃ……っ」
キスに夢中になる余り暴走気味な愛撫を綴っていた鷹栖は自嘲し、バスタオルで夏生の涙をゴシゴシ拭った。
「い、痛ぃぃ……」
「悪い」
鷹栖に涙を拭かれながら、びしょ濡れになった唇を同じバスタオルで恥ずかしそうに拭った夏生は、前髪の先から雫を滴らせている上級生を上目遣いに見つめた。
「おれは、もういいです……鷹栖先輩、風邪引いちゃうから……」
自分の頭からバスタオルを外すと、背伸びし、鷹栖の濡れ頭をゴシゴシやり始めた。
ガラス扉の向こうで降り頻る雨。
二人以外、誰もいない、雨音だけが単調に響く生徒用玄関。
縋り甲斐のある背中を丸めた鷹栖は、耳たぶまでほんのり赤く染まった夏生にタオルドライをせっせと施されながら、思う。
こいつ絶対に逃がさねぇ。
後日、放課後。
いつもの枕で昼寝していた鷹栖が目覚めればすぐ真上でウトウトしている夏生がいた。
無防備に緩んだ唇がいつにもましていとおしくて。
ガブッッ
「んっっっ!?」
噛み癖のある一匹狼、愛しい羊にまた過激なガブリキスをしてしまうのだった。
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