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「デートすっか」
一匹狼先輩こと鷹栖の思いがけない言葉に夏生はぎょぎょぎょっとした。
放課後、学校の裏庭。
無造作に伸びた草木が鬱蒼と広がる中にぽつんと設置されたベンチ。
平日の日課として鷹栖に膝枕を提供している夏生は霞む青空に彷徨わせていた視線をぎこちなく下ろした。
目を閉じたままの鷹栖。
隙あり、のように見せかけて、逆に夏生の隙をついてガブリしてくることがある。
『真っ直ぐなお前、逃がしたくねぇ』
あの雨の日から数週間が経過した。
昼休み、放課後、裏庭のベンチで一緒に過ごすくらいで、どこかへ出かけたことは皆無だった二人。
鷹栖先輩と、デデデデ、デート。
どこ行くんだろう、そもそもデートなんてしたことないし、誰かと付き合ったことないし、おれ。
正真正銘、童貞です、ハイ。
鷹栖先輩は経験値積んでるのかな、恋愛もハードボイルド路線だったりするのかな、
ガブッッ
「んっっっ!」
注意していたはずが一瞬の隙を狙われてガブリキスが炸裂し、噛み癖のある一匹狼にまた容赦なく唇を捕らわれた平凡羊なのだった。
初めて鷹栖とセンター街へお出かけした夏生だったが。
「あ、タカスン! お疲れ様です!」
「ひっ」
「うぉ、タカスンじゃないっすか、ご無沙汰っす!」
「わっ」
パツキンやらスキンヘッドやら鼻ピやらタトゥーありやら、どう見ても高校生じゃないだろう系の輩から矢継ぎ早に声をかけられる鷹栖。
おっかなびっくり斜め後ろを歩いていた夏生はビクビクしっぱなしだった。
ウ、ウチの学校のヤンキーなんか目じゃない、みんな本物っていうか、ガチっていうか。
「タ……タカスンって……?」
「鷹栖さん、を縮めてタカスンだと」
「へ、へぇ~……そういえば鷹栖先輩って不良校の人達とケンカして、全員病院送りにしたって……あれ、ほんとですか?」
ダークグレーの制服シャツを腕捲りし、同色のネクタイを緩めた手ぶらの鷹栖は斜め後ろをビクビクついてくる夏生をわざわざ顧みて答えた。
「そんなことするかよ」
「っ……ですよね、そうですよねっ」
「タイマンでグループの頭一人潰しただけだ」
え? 頭……潰した……? まさか素手で……?
「なんでそんな震えてんだ、夏生」
思わず立ち竦んでガタガタブルブルし始めた夏生に肩を竦め、鷹栖は、怯える平凡羊の片腕をぐいっと引っ張った。
「わっ?」
「並んで歩け。話しづれぇ」
身長180越えの鷹栖の隣に並ばされた夏生は男前属性なる精悍な顔立ちをためらいがちに見上げた。
……不良校の誰々とケンカしたとか、そういうことよりも。
……どんなカノジョがいたとか、初恋はいつだったとか、そういう話を聞いてみたいんだけど。
と、とてもじゃないけど聞けない、恐れ多くて聞けないです。
「ファミレス行くか」
「十分ですっ」
よ、よかった、なんかアングラ系で店員さんもお客さんも怖い人達ばっかりいる路地裏の薄暗いお店とかじゃなくてよかったぁ。
「やっぱり鷹栖だ」
その日、夏生は鷹栖のことを「鷹栖」と呼ぶ人物と初めて出会った。
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