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「久し振り。元気してた?」
街中で声をかけてきた輩系男子と比べると至極まともなルックス。
肩にイヤホンを引っかけ、ちょっと着崩した程度の他校の制服姿で王道イケメン属性。
「安城」
「外から見えて、あれって思って。びっくりして思わず来ちゃいました。このコ、友達?」
「あ……っ恩田ですっっ」
「ふーん、恩田クン。下は?」
「夏生ですっっ」
ん? 今のやり取り、どこかで覚えがあるような?
注文が済んで何を話していいのかわからず無駄にぎくしゃくしていたら安城 という鷹栖の知り合いがやってきて、内心、夏生はほっとしていた。
先輩とお店に来るの初めてで、ベンチとは違って向かい合うから、普段と違うポジションに緊張しちゃって。
この人、先輩と同中だったっていう安城さん。
茶髪で耳にピアスしてるくらいで、これまで会ったガチっぽい人達と比べたらすごく普通っぽい。
鷹栖先輩にもこういう友達がいたんだなぁ。
「俺もいっしょに晩ごはん食べよっと」
安城は鷹栖や夏生に了解を得るでもなく平然と同席するとセットメニューを注文した。
隣に座ってやたら話しかけてくる人懐っこい上級生のおかげで緊張していた夏生は大分リラックスすることができた。
「LINE教えてよ、夏生クン」
「あ、はい、ちょっと待ってください」
はっ。そういえばおれ、鷹栖先輩のメールどころか、どんな携帯持ってるのかも知らない!
「鷹栖は相変わらず? メールもネットも全くしてないの?」
「してねぇ」
あ、そうなんだ……メールだったらもっと気軽にやりとりできると思ったのに。
ていうか。
「苦手だ」
鷹栖先輩、微妙に機嫌悪い?
<おはよー昨日のドラマ見た?おもしろかったよー>
安城さんってほんとフレンドリーな人だなぁ。
鷹栖先輩と真逆のタイプだ。
安城さんなら気軽に話せるし、緊張しないし、特に注意することもないけど。
「チキンカツ今日ないんだな」
「ごっ、ごめんなさいっ、お母さんによーく言っておきますっ」
鷹栖先輩だと言葉がぽんぽん出てこない。
目を見て話すの、前より緊張するようになったし、うっかり隙を見せたらガブリ……されるし。
昼休み、そよそよと風が吹き抜けていく裏庭のベンチ。
鷹栖を隣にして昼食をとっていた夏生のズボンポケットで、ブルルッ、短いバイブレーションが鳴った。
<お昼だねー食堂めっちゃ混んでる、何食べてる?>
「安城か」
メールを送ってきた相手をズバリ言い当てた鷹栖、無駄にビクリした夏生。
「安城さん、です」
「夏生」
「はいっ?」
「あいつと関わるのはやめろ」
え?
<もしかして鷹栖と食べてるとか?>
「えっと……それ、どういう意味ですか? 鷹栖先輩……?」
そう聞き返したら。
鷹栖はいきなりベンチから立ち上がって。
そのまま無言で裏庭を去っていった。
正にポカーーーーーーンな夏生。
呆気にとられている間にも安城からのメールは画面上にどんどん表示されていく。
<鷹栖って自分のこと話さないでしょ?>
<あいつのこといろいろ教えてあげよーか?>
<今日遊ぼーよ、教えるから!>
ヤンキーにタバコのポイ捨ては注意できたのに一匹狼先輩を追いかけることができなかった平凡羊。
<知りたいです、教えてください>
代わりに、安城に、そう返信を打った。
そう返信を打ったことを夏生は早速後悔する羽目になった。
「大丈夫だって、夏生クン、怖がんないで?」
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