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放課後、待ち合わせ場所に私服姿でやってきた安城にセンター街を通り抜けて笑顔で連れて行かれた先は。
中東のインテリアが物憂い雰囲気を醸し出すアングラ系、店員さんもお客さんも怖い人達、というより気怠そうな人達ばっかりいる路地裏の薄暗いお店。
正に自分が危惧していた場所そのものであった。
しかも。
「これ吸ったらきっと落ち着くよ?」
テーブルに並べられた、化学の実験で使用されそうな怪しげな器具に、ただひたすら怪しく思える砕かれた乾燥植物入りビーカー。
そもそも店内には特有の匂いが充満していた。
「鷹栖のこと聞きたいんだよね?」
ソファに並んで座り、逃げ出さないよう夏生の肩にしっかり腕を回した安城は縮こまる下級生を笑顔で覗き込んできた。
顔の下半分を必死こいてタオルハンカチで覆った夏生はひたすら首を左右にブンブン振り続けた。
鷹栖先輩、鷹栖先輩、鷹栖先輩。
身も心もすっかり萎縮して逃げ出すこともできずに心の中で鷹栖を呼ぶことしかできないでいる夏生の元へ。
「人のモンにちょっかい出してんじゃねぇぞ、安城」
片手にガラケーを握りしめ、息を切らして、本当に鷹栖がやってきた。
安城の腕を振り払うとガタガタブルブルな夏生を立ち上がらせて即座に店を出ようとする。
そんな一匹狼の背中に安城は笑顔のまま言う。
「まさかさー、あの鷹栖がまんま羊系とファミレスなんかで仲よさげにしてたから? 俺の牙、うずうず疼いちゃったの、なーんて」
羊の皮を被った完全アウトな狼に目もくれずに、鷹栖は、平凡羊を守って怪しげな巣窟を大股で後にした。
「安城さんがああいう人だって教えてくれたら……よかったのに」
「苛ついたんだよ」
「えっ?」
「俺といる時より楽しそうにあいつと話しやがって。頭割れそうなくらい苛々した。お前のこと放し飼いにしようかと思うくらいな」
「あ、頭割る……っは、放し飼い……っ」
「でもな」
薄暗い店は出たものの二人はまだ如何わしい路地裏にいた。
ビールの空きケースが散乱し、配管が入り乱れる壁と壁の細い隙間、鷹栖に壁ドンされて夏生の視線は彷徨いっぱなしだった。
「やっぱり逃がしたくねぇ」
「せ、先輩?」
「放課後、逆にまたお前に放置されて嫌な予感がした。登録してた番号に片っ端から電話かけまくって目撃情報探した。あんなに携帯使ったの初めてだ」
「あの、待って、ちょっと、近い、です」
「今からお仕置きするからな」
お仕置きってなんですか、お仕置きって。
「や……ッやだやだやだやだッ、お仕置き嫌ですッ、ッ、ッ……!」
嫌がる夏生の唇に鷹栖お得意のガブリキスが命中した。
ばたつく両腕を簡単に壁に縫い止めて深い深い致命傷を狙ってきた。
「んぷ……ぅっ……っ」
容赦なく口内を荒らされた。
学校でのガブリキスよりも激しく掻き乱された。
柔な粘膜を舌尖で何度もなぞられて背筋を駆け上る甘い痺れ。
息継ぎもろくにできなくて、息苦しくて、ちょっとでも逃げようとすれば。
逸らされかけた唇にすぐさま追い着いて深手を刻もうとする狩りに長けた舌先。
「んっ、んっ、ッせんぱ、ぃ……っ」
壁に自分を縫い止めていた鷹栖の手が離れて自由になると、夏生は、上背ある上級生に堪らずしがみついた。
鷹栖は夏生の細腰に両手を回して抱き寄せ、崩れ落ちそうになっていた体を支えてやった。
どうしよう、まだ明るいのに、いつ誰が近くを通るかもわからないのに。
こんなガブガブされたら、おれ……なんにも考えられなくなる……。
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