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こどもの頃から思っていた。
「ごめんなさい、わるいことだってわかってたけど……ほんとにごめんなさい、もうしません」
大人なんか簡単に騙せるって。
暇潰しの万引き。
スリルとか別に求めてたわけじゃない。
わざと見つかるように商品をポケットに突っ込んで、見つけた相手をどうやって騙すか、そっちに勝負をかけていた。
友達は特に必要じゃなかった。
上辺だけの関係でテキトーに繋がって、支障のない学校生活をテキトーに過ごしていけたら、それで……。
「お前って嘘くせぇな」
ろくに意識もしていなかったクラスメートの中で鷹栖だけが別格だった。
「何考えてんのかわかんねぇ、っていうより。誰のことも考えてなさそうだな」
同じ制服、外見も性格もだいたい全員かぶってる、誰が誰か見分けなんてつかない、どの顔もいっしょに見えた色褪せた教室で。
一人だけ鋭いくらい色鮮やかだった。
いいなぁ、鷹栖。
どんなコと付き合って、どんなセックスして、どんなイキ顔するのかなぁ。
「安城とは関わるな、夏生」
昼休み、校舎から途切れがちに笑い声が届く穏やかで気持ちのいい裏庭。
ベンチに座って安城からの何てことはないメールを不安げに眺めていた夏生はパチパチ瞬きした。
「メールも無視しろ、いや、安城の存在自体無視しろ。意識するな」
自分の母親お手製のチキンカツを手掴みで食べている鷹栖の横顔を見、数度目の忠告に対する返答に迷い、項垂れた。
確かに安城さんって何考えてるのか全っ然わからない。
変な店に連れてったり、いきなり手錠なんか使ったり……普通じゃないっていうのは嫌っていうほどわかった。
だけど。
「無視しちゃっていいのかな」
独り言じみた夏生の呟きに猛禽類じみた鷹栖の鋭い目がゆっくり細められた。
「わあっっ、タメ語使ってごめんなさいスミマセンッ」
「無視しねぇでどうする、あいつとタイマンでもはるつもりかよ」
ブルブル首を左右に振った夏生は玉子焼きをぱくんっ、もぐもぐよく噛んでごっくんしてから「安城さんとはちゃんと向き合った方がいいと思うんです」と答えた。
「ありえないことしちゃう人で。最初は気さくでいい人だって思ってた分、怖く感じてます。だけど。鷹栖先輩が何回注意してもこうやっておれに連絡してくるってことは、おれ自身がちゃんと安城さんに意思表示しないと駄目なのかなって。余裕で怖いですけど」
肉の一塊などとっくに平らげていた鷹栖は綺麗な方の手で夏生の頭を撫でた。
普段ならガブリキスを仕掛けてくるはずの一匹狼の優しい振舞に平凡羊は目を丸くさせる。
「俺と付き合え、夏生」
「っ……おれと先輩、もう、つ、つ、付き合ってるんじゃないんですか……?」
「言いたくなったんだよ」
「うぅぅう」
「惚れ直した」
「うぅぅうぅうぅ」
胸いっぱいになって次のおかずに手が伸びずに真っ赤になった夏生に鷹栖は小さく笑った。
ただな、夏生。
よくねぇ話を聞いたんだ。
お前をむやみやたらに怖がらせたくねぇから伝えていいのかどうか。
安城は暴力団とつるんでる。
正確に言うなら半グレ集団と関係を持ってる。
イイ学校に通うイイ家の優等生相手にドラッグを売ってるとか。
平気で法を犯す犯罪のセミプロが高校生のクソド素人を売人にするなんてありえねぇ話だろう。
でも安城なら。
『大人ってやつがどれだけ愚かなのか俺とリサーチしてみない、鷹栖?』
「何かお腹いっぱいになっちゃいました……先輩、チキンカツもうないですけど、青じそとしらすのおにぎり、食べます……?」
純粋で真っ直ぐなお前は何も知らなくていい。
俺が守ってやる。
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