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「夏生クーーン」 夏生は幻聴かと耳を疑った。 安城は別の高校に通っている。 警戒心を抱いているとはいえ、文化祭や体育祭でもない平日、自分が通っている学校の校舎内に彼がいるなんて考えてみたこともなかった。 「どう? 似合う?」 五限と六限の間の休み時間だった。 美術室に向かうため友達と共に渡り廊下を進んでいたら他でもない安城が正面からやってきて……驚きの余り、夏生は棒立ちになった。 「あれ、誰?」 「ウチにあんなかっこいい人いたんだぁ」 ダークグレーのシャツにネクタイ、グレン・チェック柄のスラックス、見紛うことなき我が校の制服を着こなし、周囲の視線を平然とスルーして目の前までやってきた安城の笑顔に。 正直なところ夏生はやっぱり怯えてしまう。 「あ、安城さん、どうして」 「夏生クンや鷹栖と同じ学校で青春したくて転校してきたんだよー」 飴でも舐めているのか。 いやに舌足らずな口調で言われた台詞に夏生はさらに硬直した。 「ウソウソ。俺ね、この学校に友達いてさ。制服借りて遊びにきたワケ。せっかくだから夏生クン案内して?」 王道イケメン外見の安城は夏生のクラスメートに「ちょっと夏生クン借りてくね」と明るく声をかけ、そのまま強引に腕を組んで美術室とは逆方向へ足早に歩き出した。 「さすがに他の高校の中までお邪魔すんのは初だなー、あ、鷹栖とはどこでいちゃついてんの? 屋上とか?」 やっぱり怖い……です! まともに話なんかできそうにない……です! 「裏庭とか?」 「え!?」 始業チャイムが鳴り出すまで残り数分だった。 素直に反応して狼狽して焦る夏生に安城は笑顔を深めた。 「今から裏庭行こ? そーだ、鷹栖も呼ぼーよ、みんなで仲よくさぼっちゃお」 あ、え、鷹栖先輩、呼んでいいの? てっきり、先輩に黙って、また突拍子もないコトするのかなって……。

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