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安城はこれまでの悪質なイタズラにおいてダントツ突拍子もないコトを夏生と鷹栖に仕掛けてきた。 「もう忠告はナシだ、夏生に近づいたら痛い目どころじゃねぇ、死んだ方がマシな悪夢に遭う、覚悟しやがれ」 「せ、先輩、駄目……っ」 夏生がメールすれば鷹栖は裏庭へすぐさま駆けつけた。 途方に暮れて突っ立ったままでいる平凡羊の傍ら、ベンチに悠然と腰かけていた偽羊を見つけるなり、胸倉を引っ掴んで乱暴に立ち上がらせた。 「死んだ方がマシな悪夢とか。鷹栖かっこよすぎ」 激昂する鷹栖を前に怖気づくどころか、安城は笑顔を崩すことなく、いつものように一匹狼を茶化して。 次の瞬間。 「え!!!!」 二人のそばでおろおろしていた夏生はびっくり仰天した。 安城に掴みかかっていた鷹栖も同じく驚いた。 安城はすぐ目前に迫っていた鷹栖の頭を恋人じみた手つきで抱き寄せて……キスをした。 無防備だった唇にソレを押し込んだ。 口内の奥まで突っ込まれたソレを反射的に呑み込んだ一匹狼。 羊の皮を纏った完全アウトな狼は今日一番の笑みを浮かべた。 「鷹栖にプレゼント。スペシャルな放課後や週末には手放せない最新スイーツ極上キャンディ」 ストレスを溜め込んだ極一部の優等生が息抜きとして安城から購入していく錠剤型ドラッグ。 「なに、やって、キャンディなら口移しじゃなくて、わ、渡せばいいのに、え、なんで、キスなんか」 何も知らない夏生は二人のキスにただ戸惑っていた。 力任せに安城を突き離し、口元を押さえ、その場で立ち竦んでいる鷹栖に不安を煽られて彼のそばへ駆け寄った。 「先輩……っ?」 「ッ……教室戻れ、夏生」 「えっ?」 「今すぐ、早くしろッ」 「鷹栖ってば、そんなに今すぐ俺と二人きりになりたいの?」 「テメェは黙ってろ!!」 「しー。先生来ちゃうって。おくすり服用してるの気づかれたらお巡りさんまで来ちゃうよ?」 「おくすり? お、お巡りさん? どういう意味ですか、安城さ……」 急にガクリと崩れ落ちた鷹栖に夏生の台詞は途切れた。 慌てて顔を覗き込んでみれば、息が荒い、どうにも抜群の即効性らしい。 「鷹栖が今呑んだやつはね、ドラッグだよ、夏生クン」 平凡な羊ちゃんには手に負えなくなる。 牙を剥いた狼にとことん怯えればいい。 怖がられた鷹栖も見物だし。 怖がっちゃう夏生クンだってかわいーし。 二人のこと、ほんと好きなんだよね、俺……。 「あれ」 笑っていたはずの安城は急に痛みを覚えてキョトンした。 頬がジンジン疼き出す。 口の中に血の味が滲む。 気が付けば目の前に夏生が立っていた。 涙目で怒っている彼の利き手は安城の片頬と同様、鈍く疼き、赤くなっていた。 え、俺、もしかして。 羊ちゃんに叩かれ、 ばちん!!!! 地面に蹲って全身を蝕む狂的な熱に耐えながらも半開きの目で展開を見つめていた鷹栖はかろうじて呆気にとられた。 安城の両頬を立て続けにビンタした夏生に釘付けになった。 「しっ……んじられません、信じられないッ!ここからッ!先輩の前からッ!早く今すぐ消えてなくなってくださいッッ!」 「……夏生」 苦しげに紡がれた呼び声に夏生はぶわりと振り返った。 自分より上背があって逞しい一匹狼を一生懸命立ち上がらせ、肩を貸し、超よろよろな心許ない足取りで少しずつ前進した。 「と、とりあえず学校から出ます、そ、そうだ、一番近いバス停で待っててください、俺、とりあえず荷物とってきます、それから……ううっ、わかりませんっ、とりあえず学校から離れますっ」 必死こく夏生と初めてのドラッグ服用に体が混乱している鷹栖は安城の視界からやがて消えた。 裏庭に一人取り残された彼は赤く腫れた両頬を両手でゆっくり覆い、心の底から笑った。

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