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迷いに迷った末に夏生がタクシーで鷹栖を連れて行った先は。
「えっと、ええっと、確か明るいパネルが空室で暗いパネルはもうお客さんがいて、ええっ、こんな時間からもう!? うそだぁ……」
以前、安城に強制連行されたことのある無人受付のラブホであった。
互いの家に連れて帰るわけにもいかず、人目に触れるところで休ませるのも避けたく、カラオケの受付で店員に訝しがられて質問責めに合うのも気が気じゃないと思い、平凡羊が苦心して導き出した避難場所だった。
あれ。
でもちょっと待てよ。
おれも鷹栖先輩も悪いことしたわけじゃないし。
今すぐにでも病院へ連れて行くべきなんじゃ。
てんぱっていた夏生は部屋の半分を占めるベッドに寝かせていた鷹栖を慌ただしげに覗き込んだ。
「先輩、救急車呼びますか!?」
「いや……呼ぶな、夏生」
一匹狼は白い羽布団をかけられて横になっていた。
発熱しているのが明らかな、紅潮して汗ばんだ頬。
苦しげに急いている息遣い。
眉間に刻まれた縦皺がずっと消えない。
「ほんとに大丈夫……ですか?」
夏生が問いかければ鷹栖は目を閉じたまま浅く頷いた。
ひどい、ひどい、ひどい。
鷹栖先輩をこんな目に遭わせるなんて、安城さん、信じられない。
どう見ても大丈夫そうじゃない。
先輩、きっとむりしてる……。
「お水飲みますかっ?」
「いや、いい……」
制服着たままで、窮屈そう、ネクタイもしたまんまだ。
「鷹栖先輩、あの、ネクタイ外しますね……?」
夏生は広いベッドに片足を乗り上げ、常に緩みがちな鷹栖のネクタイを完全に外そうと手を伸ばした。
結び目に行き着く前に手首をきつく握り締められた。
骨まで届くどころか、心臓にまで伝わりそうな掌の熱に夏生はゴクリと喉を鳴らした。
「はぁ……」
引き寄せた細い手首に頬擦りし、唇を寄せ、鷹栖は重たげに息を吐いた。
「……鷹栖先輩」
「……夏生、お前、もう帰れ」
すぐに夏生の手首を解放した鷹栖は寝返りを打って体ごと反対側を向いた。
「た、た、鷹栖先輩ぃぃ」
「泣くな、死にはしねぇよ……数時間こんな状態が続くだけだ……重てぇのに肩貸してくれてありがとな……」
「た、鷹栖先輩がおれにお礼言うなんて……死亡フラグみたいで怖いです、っほ、ほんとに死なないっ!?」
「……死なねぇって……俺のいうこと聞いて帰れ、夏生」
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