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あっち側を向いた鷹栖に立て続けに帰れと言われて夏生はしょ気た。 大切な人が苦しんでいるのに何もできない。 無力な自分が嫌になってくる。 しかしこれ以上長居して苦しんでいる鷹栖に気遣われるのも申し訳ない。 財布だけ置いていくことにして、優れない顔色で、夏生は帰る準備をもたもた始めた。 「……よかった……」 ソファに投げ捨ててあったスクバをとろうとした夏生の手が空中でピタリと止まった。 「……こんな妙なモン、お前が呑み込まねぇでよかった……」 先輩って、先輩って。 どうしてそんなに強いんですか? 自分が弱ってるのに、おれのこと、こんなに気にしてくれるなんて。 夏生はくるりと方向転換した。 ソファ上のスクバもそのままに、出入り口なるドアではなく鷹栖が横になっているベッドへ後戻りした。 後戻りするどころか。 靴を脱いでベッドの中にまで潜り込んだ。 「……おい、夏生……」 背中にぎこちなくくっついてみれば一匹狼の掠れた声がして、夏生は、緊張感やらどきどきする胸に押し潰されそうになりながらも震える声を絞り出した。 「やっぱり、ほっとけないです、おれ」 「……」 「先輩のこと、おいていけない……何もできないってわかってるけど、せめて……いっしょにいさせてください……お願い……」 鷹栖先輩の広い背中、すごく熱い。 ドラッグって……どんな効き目があるんだろ……どうすれば先輩のこと楽にしてあげられるんだろ……? ギシィッッッ 「えっっっ?」 急に視界がぐるりと変わって夏生は目を白黒させた。 「鷹栖せんぱ、い!!??」 仰向けにされるなり両足の間に割って入ってきた鷹栖の、その凄まじい昂揚感を痛感させられて無駄に大きな声を上げた。 純情初心な平凡羊がどう反応するのか予測がついていた鷹栖は、自分の真下でまっかになって素直に動揺している夏生に言う。 「安城の奴が俺に呑ませたのは……一種の興奮剤……快感増幅に繋がるブツだ……」 「こ、興奮剤……か、快感増幅……」 「正直な……お前がここにい続けたら……」 狂おしく熱せられた昂ぶりを服越しにグリ、と押しつけられて夏生はビクリと震え上がった。 「ン……っ」 「自分を抑える自信がねぇ」 「こ……これ、この間より……何か……えっと……す、すごい……?」 「学校やタクシーでは何とかギリギリ耐えた、今も、かろうじて……だからまだ間に合う……今すぐ帰れ」 鷹栖先輩。 むりさせて、ガマンさせて、ごめんなさい。 夏生は真上に迫る鷹栖の制服シャツをきゅっと掴んだ。 羽布団の中に満ちる彼の熱に、危うい興奮に丸呑みにされないよう寸でのところで理性を保っている彼の強さに、じわりと双眸を濡らした。 「おれ……帰りません、先輩のそばにいます」 だから、むりしないで、もうガマンしないで……?

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