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第2話 3

 逆らえずに、男の部屋まで着いて行く。エレベーターで、名前を聞いた。芳野雪平という名前を、南は兄の口から聞いたことはなかった。  雪平の部屋は荒れていた。単純に散らかっているだけではなくて、感情のままに物が投げつけられたのだろう。割れた食器がいくつもあり、本やパソコンまで床に散乱している。それでも上がるように言われて、部屋に上がる。リビングで、小さなガラスの破片を踏んだ。靴下に血が滲んでいく。 「こっち」  雪平は手を離してくれなくて、浴室まで連れてこられる。ガラスを踏んだ指先がズキズキと痛む。床に血が付かないように片足を上げていると、雪平が跪いて靴下を脱がせた。ガラスが刺さっているのか、雪平が傷口に触れる。 「い……っ」 「痛い? これ、押し込んだらどうなるかな」  刺さったガラスを親指で押し込むような動作に、南は驚いてよろける。 「あっぶね」  南を支えるように立ち上がった雪平は、少し気まずそうな顔をする。 「……ピンセット持ってくるから。あとその濡れた服脱げよ。風呂入れ」 「あ、あなたの方が、先に入った方がいいです。震えてる、から」 「寒いからな」  言い残して、雪平はピンセットを取りに行った。戻ってきた雪平にまだ服を脱いでいなかったことを叱られ、脱がされる。下着は断固として拒否したのに、かまわず引き下ろされた。そのまま浴室に押し込められ、温かいシャワーをかけられる。  南をバスタブに座らせ、雪平はその下に座り込み、ピンセットでガラスを取ってくれる。南は痛みよりも、初対面の人間の前で素っ裸になっていることの恥ずかしさの方が気になっていた。ガラスは気になるが、じっと見ていると時折顔を上げる雪平と目があってしまい、恥ずかしい。ああこんなシャンプーを使うのか、などと、わざと浴室の中のものに意識を向けた。 「取れた」 「そう、ですか。ありがとうございま、す!?」  あまりに驚いて、声が裏返った。雪平が、南の足の指先を口に含んだのだ。 「あ、あのっ」 「ん……」 「い……っ」  傷口がピリッと痛んだ。南の小さな悲鳴に、雪平はやっと口を離す。舌には血が滲んでいる。それを見て、まだ小さなガラスの破片が残っていて舌を切ったのではないかと、ひやりとする。  慌ててしゃがんで、雪平の口の中に指を入れて開けさせる。 「大丈夫ですか!?」  雪平は答えず、南の指に舌を絡ませる。それで、先ほどの血は南の傷口の血だったのだとわかった。  ほっとすると同時に、艶めかしい舌の動きに目を奪われた。 「……なあ、俺も一緒に入っていい? 寒いから」 「え、っていうか、俺大丈夫です。タオルだけ貸してもらえたら……」 「嘘。冷えてんじゃん」  肩からシャワーを掛けられて、温かさにほっとした。その表情の緩みを見られたのか、雪平はクスっと笑った。 「男同士なんだから、別に構わないだろ?」  そう言われてしまえば、否定することはできない。服を脱いだ雪平を前に、南はぎこちなく視線をそらす。 「洗ってやろうか」  意味がわからなくて聞き返す前に、ボディソープを手のひらに出した雪平が南の胸に手を伸ばした。 「ちょっと」 「何?」 「何って……」 「俺、平とこういうこと何度もしたよ」 「え?」  こういうこととはどういうことなのだろう。ただの友達、知り合いではない?   雪平の爪が胸の先を掠める。指で撫でる。明らかに、意図を持った触り方だった。ただの友達が、こういうことをするとは思えない。 「なあ、どう思う?」  雪平の手が股間に伸びる。 「ほんと、待って、待ってください!」  雪平の手を掴んで止めさせようとしたら、唇が重なってきた。 「キスも何度もしたよ」 「え、どういう、こと」 「お前の兄貴は、男のケツにこれ突っ込んで楽しむ奴なんだよ」  南の手を解いて、雪平は南の萎えているものを掴む。 「お前男とやったことある? ないよな? 平言ってたし。弟は純粋で初心で自分とは正反対だって。好きなものに一途で一生懸命で可愛い奴だって」  快楽が生まれるように強く擦られる。このような経験のない南は混乱と羞恥で拒否もできない。

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