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第2話 4
「その弟が俺みたいなのに食われたら、あいつどう思うかな? あいつにとって俺なんかこれまで遊びで食ってきた女たちと変わんないんだろうけど、俺が弟とやったって言ったらきっと動揺するよな?」
雪平に抱き着かれて、壁に追い詰められる。その壁の冷たさに鳥肌が立つ。
「なあ、俺とやろうな。大丈夫だよ。俺が全部やってやるから。お前は穴に突っ込めばいいだけだよ。な? やろ?」
唇が触れて初めて酒の匂いを感じて、雪平が酔っていることに気がついた。
「あなたは、今酔ってるでしょう? 事情は、よくわかりませんけど、兄があなたを傷つけたことは本当でしょう。でも、酔っている人相手に、俺は」
「じゃあ出てけよ。そしたら俺はここで死ぬから。お前ら兄弟が殺したと思えよ」
「……っ」
どうしたらいいのかわからず途方にくれた。酔っているとは思う。でも雪平の言動が、酔っているからなのか元々こうなのかは、初対面の南にはわからない。今突き放したら、この人が死ぬかもしれないということだけはわかる。
「やるって、セックスするってことですか……?」
「うん」
「セックスをしたら、あなたは死なないんですか」
「うん」
「セックスしたら、あなたは救われるんですか」
「救いなんて、ねえよ」
救われないのに。
「でも、助けて」
縋る体が震えていたから。
どうしても、はねつけることはできなかったのだ。
◇
「んっ、んぁ」
誰かと身体を重ねることが初めての南は、雪平の出す声が痛々しく思えて、辛かった。泣いているようだったから。
「痛いですか? 大丈夫ですか?」
「……っ、痛くねえよ」
「でも、涙が、声も」
南はベッドに押し倒されて、動かなくていいと言われた。雪平は少し自分で肛門を弄ってから、南に跨って南のものを挿れようとする。先の方が入ったところで、雪平が涙を流していることに気がついた。
「多少は、痛むけど、これは、痛いんじゃなくて……あっ」
腰を落とすとまた声を上げる。雪平の心配をしつつも、初めて味わう締め付けに、南の意識は持っていかれそうになる。
「お前の、大きいね……っ、あ、いいっ」
「……っ」
奥まで飲み込むと、少し息を整えるように、雪平はじっとしている。
「大丈夫ですか? 苦しくないですか?」
「はあ? こんなでけぇもん入ってんだから苦しいに決まってんだろ。苦しくて、気持ちいいー」
雪平が顔を近づける。薄く口を開いて、キスを求められているのだとわかる。誰かとキスをするのも初めてだったのに、もう何度も求められるから、慣れてしまった。雪平の舌が南の口の中を貪る。雪平の唾液を飲み込む。飲み込むたびに、南は自分が別のものに変わっていくような錯覚を起こす。
「お前はどうなの? 初めて男としてみてさ」
わざとなのか、きゅっと締め付けられて、気が遠くなる。
「あはは、気持ちいいんだ? おっきくなった」
初めて、雪平が楽しそうに笑った。
「……何、なんで泣くの。気持ちいいから?」
「わかりません……あなたが、笑うから」
「そういうの、やめろよ。いい人ぶるなよ。お前は俺を捨てた平の弟なんだから。辛いのは俺なんだから。慰めてほしいのは俺なんだから」
「わかってます、わかってるんですけど」
ああ、慰めなくちゃ。死にたくなるほど傷ついているこの人を。
「……っ」
どうしたらいいのかわからなくて、頭を撫でた。シャワーを浴びた後の長い髪はまだ湿っていて、冷たい。雪平は目を見開いた後、泣きそうな顔をする。
せっかく笑顔が見れたのに。
「なあ、動いて。もっと気持ちよくして。抱きしめて。キスして。頭撫でて。甘やかして」
雪平に手を引かれて起き上がる。今度は雪平が仰向けに横たわった。抜けないように、自然と雪平に覆いかぶさるかたちになる。
「好きって言って」
泣き声だった。
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