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第2話 5

 乞われるままに腰を動かした。気持ちいい、気持ちいい、と雪平が言うから、ぎりぎりまで引いては奥を突いた。前髪をかきあげるように撫で、額にキスを落とし、好きだと言った。言うたびに、本当に雪平のことを好きになっていくように感じた。  自分は、この人のことを何も知らないのに。 「あんっ、好き、好き、あ、みなみっ」  兄の代わりなのだろうと思う。なのに、朦朧としているようなのに、雪平は間違えることなく南を呼ぶ。本当に南のことを好きだとでもいうように。  あんなに寒かったのに、今は熱くて堪らない。  雪平の手が股間に伸びていることに気が付いて、その手をやんわりとどけて雪平のものを握った。 「お前、男としてるよ……っ?」 「……? わかってます」 「ふふ……っ、あははっ」  男に性的な興奮なんてしたことはなかった。あのキスで、自分は変わってしまったのだろうか。だって、ちっとも嫌じゃない。こうして男のものを握って、扱いて、甘い声を聞くことが。 「あぁっ、両方、きもちいっ」 「気持ち、いいですか」 「いいっ、ふはっ、はは、みなみ、みなみ」  名前を呼ばれるたびに、頭の中が溶けていくみたいだった。何も考えられなくなっていく。 「みなみ、俺のこと、好き?」 「好きです」 「……っ、ぁ、いくっ」  雪平の白濁が南の手を汚して、締め付けはぎゅうっと強くなった。それに耐えることはできなくて、南は雪平の中に吐精した。  胸を上下させて息を整える姿が色っぽくて、赤く染まった頬が愛しくて、唇を寄せた。雪平はくすっと笑って応えてくれる。 「みなみ、みなみ、もう一度しよ」 「え」 「もっと俺に溺れろよ。そしたら俺は救われる」  この人として、どうして別の人を選べたんだろう。こんなにも、求められて、求めるこの時間を過ごして、どうして。  雪平の手が背中に伸びる。甘い声が耳元で囁く。 「ねえ、愛して?」  どうして兄はこんなに可愛い人を傷つけられたんだろう。   ◇ 「みーなみ、親と平から着信すげーよ。とりあえず、帰りに友達と会ってオールしたってメールしといた。お前ってそういうキャラ? ふふ、違いそう」  朝日が眩しくて、目が開けられない。 「あ、眩しい?」  人影が、日を遮るように南の目の前にくる。 「荷物漁って悪かったな。そういえば携帯とか大丈夫か? って思って。これ防水? 大丈夫だったよ」  昨日、自分は初めてセックスをした。可愛い人。傷ついていた、可愛い人と。その人がまだ、こんなに近くにいる。夢じゃない。  目を開く。逆光になっていても、その細い身体が何も身に着けていないことはわかる。昨日の情事を思い出させる。 「よく寝てたね。俺寒くて目ぇ覚めちゃった。暖房温度上げたよ。服着こんでもよかったけど、起きた時のお前の驚き顔見たかったからさぁ」  声は踊るように楽しそう。 「お前今日仕事休み? 休みだったらもう一回しよ。昨日よりもっと気持ちよくしてあげる。っていうか、覚えてる?」 「雪平、さん?」 「そう! 覚えてるか! 酒の匂いはしなかったもんな。何回目まで覚えてる? お前急に寝ちゃうんだもん。びびったぁ。やり殺したかと思った。途中からなんか夢心地っていうか、お前ふわふわしてたから」  軽い笑い声。 「はは、可愛かった。お前そんな外見なのに慣れてねぇんだね」 「笑ってる」  起き上がったら、雪平がきょとんとしていた。 「笑ってるのはお前じゃん」  にっと笑う雪平は、昨日の憎しみに満ちた言葉を吐き続けていた人間と同一人物だとは思えなかった。

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