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第2話 6
「昨日は悪かったな。はあ、酔ってた」
「え。やっぱり酔ってたんですか」
「でも、ちゃんと覚えてるよ。だから、ごめん。酷いこといっぱい言ったな。死ねなんて、ほんと、言っちゃ駄目だった」
「兄が、あなたにあそこまで言わせたんでしょう?」
雪平は苦笑する。
「まあな。平は、酷い奴だから。俺は遊ばれただけ。結婚するって聞いて、やけ酒してたら悪酔いしちまった。平はノーマルだってちゃんとわかってるはずだったのに。あいつ、口は調子いいこと言うから」
「ごめんなさい」
「お前が謝ることじゃねぇよ。……昨日散々お前のこと責めてた口がよく言うって感じだけど」
雪平さん、と静かに呼んでから、キスをした。
「俺じゃ駄目ですか」
「……っだ、駄目じゃねえけど、お前こそいいのかよ……っ」
顔が赤くなる雪平が可愛くて、自然と頬が緩む。
「はい。もちろん。あなたが好きです。ちゃんと責任とらせてください」
「う、じゃ、じゃあよろしく……」
「よろしくお願いします」
可愛い人だ。自分が幸せにしてあげたい。
「あ、そうだ。なあ、お前仕事大丈夫? もうすぐ八時だけど」
「大丈夫です。昨日から冬休みに入ったので」
「冬休み? あ、年末年始の休みってこと? いや、お前もしかして大学生?」
雪平の眉に皺が寄る。
「高校生です。高校二年生」
「はあああああああ!?」
南から距離を取ろうとしたような雪平が、ベッドから落ちる。
「雪平さん? 大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫じゃねぇよ! 平は三十だろ!?」
「かなり離れてるんです」
雪平は無言で立ち上がり、近くに散乱していた衣服の中からTシャツとジャージを身に着ける。南にも服を差し出す。
「これ、平の服。これ着て出てけ。言い訳は自分で考えろ」
「え」
「昨日のことと、さっき話したこと、全部忘れろ」
「なん」
「訴えるならそれでもいいよ。知らなくても未成年に手を出したのは本当のことだし」
「ちょっと」
「……違う。動揺してる。ごめん。大丈夫? 保護者呼ぶ? 平呼ぶ? 警察でもいいけど」
「どうしてそうなるんですか!」
「俺がしたことは犯罪なんだよ! 強姦と一緒だ!」
「なんでですか! 同意でしたことです!」
「同意してたって、未成年相手にやったら犯罪なんだ!」
「真剣に付き合ってるなら問題ないはずでしょう!?」
「大ありだ! お前ガキ同士でしかヤったことないんだろ! ああいうやつが初めてで、だからそれで今は浮かれてるだけだ!」
「違う!」
「おかしいとは思ったんだ。お前みたいのがなんで何も知らない俺なんかのこと好きとか言えんのかって。ガキが浮かれてるだけだったん」
「違います!」
雪平の言葉に南は怒鳴る。こんな感情の昂ぶりは初めてのことで、自分でも動揺していた。けれど否定しなくては。どうしても否定しなければ。それだけは確信を持っていた。だから必死に叫ぶしかない。
「違います! 俺は確かにただのガキですけど、昨日確かにあなたを好きだと思った。何も知らないけど、あなたの笑顔をもっと見たいと思った。それじゃ駄目なんですか!? これから雪平さんのことを知っていきたいって思った! 知りたいと思えることは好きとは言っちゃいけないんですか!?」
ふいに雪平がふらりと床に座り込む。
「雪平さん?」
慌てて駆け寄り肩に手を伸ばすが、雪平に手を払われた。
「昨日、やり過ぎただけ。ほっとけ。ほんと、もう、出てって……っ」
泣かせてしまった。あんなに、楽しそうに笑っていたのに。やっと笑顔が見れたのに。
平の服を着て、部屋を後にするしかなかった。
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