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第4話 4
「あの」
「悪い」
「おかしいでしょ」
「はい」
「ねえ。雪平さん!」
キスをしようとしたら、唇と唇の間に手を挟まれた。
「どけてください」
「できない」
「やりたいって言ったの雪平さんでしょ? 突っ込んでほしいとか言いませんでした?」
「うう、一瞬お前が未成年ってすっぽ抜けた」
「すっぽ抜けたままでいてください」
「駄目。気づいちまったもんは無視できねぇ」
「嘘でしょ。ここからお預けとかないですよね?」
「あー、寝室貸そう。抜いておいで」
「雪平さん……」
盛り上がった気持ちが萎んでいく。雪平はだらしのない人間だけど、未成年に手を出さないというのだけは何があっても曲げない。
「そのルールはなんなんですか。クラスメイトだって大学生と付き合ったりしてますよ」
「俺は、お前と最初にやったのは、あれは無理矢理だったじゃん」
「俺は同意してた」
「同意させたんだ、俺が。俺わかってるもん。こう誘ったら男はやってくれるとかさ。今も……ああやって腕絡ませたらキスしてくれるってわかって誘った」
「だから何ですか?」
「なんかそういうの、駄目じゃん。恋愛的な、対等な駆け引きじゃない。南の経験があんまないのにつけ込んでる」
「じゃあ、嫌がる雪平さんを俺が無理に犯したら、それは雪平さんのルール違反になりませんか」
「え」
呆けた雪平の腕を頭の上で一纏めにして押さえ、唇を重ねた。唇は、プリンを食べていたせいか甘かった。
「あの、南?」
「最初にしたのが犯罪だって言うんでしょ? 雪平さんは。じゃあ俺がこれから雪平さんを無理矢理犯したら、それは未成年でも俺の罪ですよね」
「ちょっと待」
「待ちません」
ソファから降りて、雪平の手を引いて起こさせる。戸惑う雪平に構わず、寝室に連れていく。そこに雪平を置いて、リビングに転がっていたダンボールを縛るのに使う紐を持っていく。
雪平は雰囲気を変えようと思ったのか寝室の電気を点けていたけど、それを消してしまう。リビングから漏れ出てくる光で、ベッドに座る雪平がびくりと震えたのがわかった。次に南が何を持ってきたのか目に入ったのだろう、雪平がひくっと息を呑んだ。
「あの、え、南?」
「雪平さん、ごめんなさい」
南がベッドに膝をつくと、ぎっと音が鳴った。雪平をゆっくりと押し倒す。
「南、何するんだよ」
「言ったでしょ。無理矢理犯すんです」
耳元で囁くと、雪平が急に抵抗を始めた。聞きなれない南の低い声に、ようやく危機感を覚えたらしい。
「頭冷やせ!」
「冷やしません。ごめんなさい」
「おい!」
のしかかる南を押し返そうとする腕を再び抑え込んで頭上で縛るが、それでも雪平は腕をがむしゃらに動かして抵抗する。溜息を吐いてベッドの頭部分に紐を伸ばして固定した。
「南!」
「どう考えても、俺が雪平さんを強姦してますよね」
「おい!」
「肉体的に拘束してる分、初めての時より質悪いですよ。同意させることさえしてない。雪平さんは嫌がってるのに」
嫌がりつつも、雪平が南を気遣ってくれているのはわかる。怪我をさせないようにと思っているのかもしれない。拘束を解こうと暴れるが、南を蹴ったりすることはないから。
キスをしたら動きが止まった。雪平の唇が震えているのがわかった。
「……怖いですか?」
「怖い」
か細い声にひるみそうになるが、雪平の瞳がガラス玉ではなく、迷うように揺れているのを見て自分を叱咤する。だってもう、あのガラス玉みたいな瞳を見るのは嫌だ。
雪平のシャツを胸までたくし上げる。小さな乳頭を摘まむと、「ん」と小さな声が聞こえた。雪平にこうした意図を持って触れるのは初めて出会った夜以来のことで、緊張しながら恐る恐る舌を這わせた。ピンと尖った突起を舌で突くと、南の下で雪平が小さく跳ねた。
「ぁん」
小さな突起を口に含み、舌で転がす。反対の乳首は指で捏ねると、雪平はますます甘い声を出す。確かめるように雪平の股間を探ると、そこは硬く膨らみ始めていた。
「やだ……」
「雪平さん?」
「やだ、南」
どうしてだろう。感じてるじゃないか。甘い声を出していたじゃないか。こんなにもあからさまに、雪平だって欲情してるじゃないか。
動きが止まった南を雪平がまっすぐ見上げる。大きな瞳が涙で濡れている。
「俺のこと、傷つけないって言ったのに」
冷水を浴びせられたようだった。雪平の縛っていた手を解く。くっきりと跡がついていた。雪平はゆっくりと腕を下ろし、その跡を見つめていた。
「傷つきますか?」
「傷つくよ、そりゃあ」
「傷つかないでくださいよ」
「んな無茶な」
「泣かせた」
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