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05
「………」
ま、そうだよね。
倒れてんの、織田だし?
多分律が好きなの、織田だし?
でもなに、このやり切れない気持ち。
「玲哉、何があったの?」
「…別に。なんでもない」
「なんでもなくないでしょ」
律が手を貸して織田を起き上がらせる。
「玲哉も一緒に取りに行くとか言ったわりに2人とも全然戻って来ないし、玲哉倒れてるし…智ちゃん苛めちゃ駄目じゃん」
なんて冗談ぽく笑いながら俺を見上げた律。場を和ませようとしたのか知らないが、そんなの逆効果だ。
確かにこの状況では、どう考えても俺が何かしちゃったとしか考えられない。
分かってるのに律のセリフに酷く傷付いている自分がいた。
咄嗟に言葉が出ず、黙り込んでしまった俺を見て律が少し顔色を変える。
「智ちゃん?」
「浅倉、俺は大丈夫だ」
「智ちゃん、ちゃんと話して」
織田の言葉を抑えて律の目が俺をジッと見つめてくる。ちゃんと話してって…なんて言えばいいんだよ。
うまく言葉が出てこない。まるで俺のことを疑ってるような律の表情に足が竦んだ。
「…いや」
口からは意味のない言葉しか出てこない。こんなの言葉というよりただの音だ。しっかりしろよ。俺らしくない。情けなさ過ぎる。
痛いくらいに拳を握り締めるが、どうしても上手く言葉に出来なかった。
そんな俺に痺れを切らしたのか、律が溜息をつく。
「…とりあえず体育館行こっか。ああ、シューズあったんだね。よかった」
律が転がった自分のシューズと俺のシューズを手に取ると、俺の分を手渡して来て自然と目が合う。何かを言おうとしたのか口を開いたが、少し躊躇って何も喋らず口を閉じた。
――なんだよ、それ。
「律……」
俺の呼び掛けに律が反応する。
「……ごめん、俺ちょっと腹痛いから遅れて行くわ。ヤスシーに言っといて」
「…お腹?……ん、わかった。ちゃんと後で来なよ?」
俺の言葉に少しがっかりしたような顔をして頷いた律は、織田と一緒に教室を後にする。織田は一度もこちらを振り返らなかった。
「……」
律のやつ、少しはグダグダ言うのかと思ったのに、あっさり行っちゃうのか。薄情者め。
2人の足音が完全に無くなるのを確かめて、俺はズルズルとロッカーを背に崩れ落ちた。
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