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「あれ。智ちゃんまだ居たの?まさか今まで寝てたとか?」 いつも終礼が終わると同時に速攻で教室を出ていた俺が、こんな時間まで残っていたことに驚いたようで目を丸くする。 「…いちゃ悪いかよ。つか、なんで起こしてくんなかったんだ」 律は既にバスケ部の練習用ユニフォームに着替えていて、程良く筋肉の付いたすらりと長い腕で頭をかいた。 「やー、あんまりにも幸せそうに寝てたからさー。これは起こしたらダメなやつかなーと思って?敢えてのスルーだよ?」 「………」 嘘っぽい。かなり嘘っぽい。 しかし、俺はなにも言わないでおいた。 多分掘り下げたら自分が傷付くパターンのやつだ。 無意識のうちに下を向いていたようで、律が静かに俺の名を呼ぶ。 「…智ちゃん」 「ん?」 顔を上げると、律は俺が安心する落ち着いた表情で優しくこちらを見ていた。 「体育の時のことだけど」 「あ…」 「俺、智ちゃんが何かしたなんて思ってないからね。どうしてああなったのか分かんないし、玲哉も何も言わないし…でも智ちゃんが虐める理由ないもんねえ」 ビックリした。 律から話を切り出したこともそうだし、そんなことを言ってくれるなんてことも。ただただビックリしてしまった。 「………」 間抜けな顔をしていたと思う。そんな俺の顔を覗き込んで律が首をかしげる。 「智ちゃーん?」 「あ、はい」 「はいって…反応は?」 「反応……お前、意外と考えてるんだな」 至って大真面目にそう答えると律はフハッと吹き出した。 「なにそれー?もしかして本気で俺が智ちゃんのこと疑ってると思った?」 「…うん」 癪だが素直に頷くと、律は笑顔のままその大きな手の平で俺の頭を撫でた。 「ばーか。何年一緒に居ると思ってんの。智ちゃんがそんなことする子じゃないことくらい知ってるから」 不安も心配も全部まとめて包み込んでくれるような柔らかであたたかい笑みだ。同い年のくせに、なんでそんな顔出来るんだって何度も思った。 律は面倒臭いとこがいっぱいある。酷い時は1日に何度もイラつかせてくれる。 でもそのマイナスな部分もこれだけでチャラにできるくらいこの笑顔に俺は何度も救われたし、俺は律のこの笑顔が大好きだ。

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