35 / 166
07
「仕方ない。じゃあ一緒に行くか?浅倉」
「ん?あ~、行く?」
織田がガバッとソファーから起き上がって、かけていた黒のパーカーに袖を通した。
先程とは打って変わって行動の早い織田はカバンから財布を取り出すとケツポケットに入れる。
あっという間に準備万端だ。
そのまま俺の前を横切って玄関まで歩いて行ってしまう。
「マジで智ちゃん行かないの?」
「気ぃ効かせてんだよ…!ばか」
小声でそう告げる。
律は少し驚いた表情をした。
「あ、そゆことー?智ちゃん気が効くね!」
ばんばんと背中を叩かれ思わず前のめりになった。痛えわ!
「いいから、早く行けよ」
「そういうことならお言葉に甘えて行ってきまーす」
律も織田のあとを追って意気揚々と玄関の方へと消えていく。
少し離れた場所で、何食べる?とかそんな会話が聞こえたが直ぐにドアの開閉する音とともに静かになった。
嵐が去ったように静まり返る部屋。一人っきりになった俺は、遠慮なく大きなため息をついた。
「はあ~、つかれた…」
慣れないことはするもんじゃないな。
「よし!」
気を切り替えて、グイッと腕をまくる。
若干盛った部分はあるが、食材が余っているのは本当だ。
俺はお昼の弁当も自分でよく作るし朝も夜もなるべく自炊をするようにしている。むしろ食堂に行くことの方が少ない。
この学校は男が家事や炊事をこなし自立することも推奨しているため、寮内の全室にキッチンが完備されている。
部屋の掃除ももちろん自分たちでやらなければならないし、ゴミ出しも指定の日に分別をして捨てなければいけない。
洗濯機はさすがに部屋にはないが、各階に無料で使えるコインランドリーがあるのだ。
部屋こそ相部屋だが、それ以外の部分はほぼ一人暮らしと変わらない。
寮を出ても直ぐに自立できるように、という学校側の考えらしい。
俺も最初は家事も炊事も全然ダメだったけど、なんだかんだ1年やってみると何となくできるようになるもんだ。
「凝ったのは面倒くさいな。…野菜炒めとかでいっか」
切って炒めるだけの超簡単なやつだ。律が腹減っただの智ちゃんのご飯が食べたいだのと甘えてくるときは仕方なくちょっとだけ凝ったものを作ってやるが、今日は自分一人。凝ったものを作る元気も気力もない。
一応米は炊くか。
冷蔵庫を開けて中のものを確認しながら、のんびりそんなことを考えた。
ともだちにシェアしよう!