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織田は生きていた。 それはいい。良かった。一安心だ。 しかし口が閉じない俺の視線の先。生きていた織田の傍をぷかぷか浮かぶ黄色い塊を、脳がどうしても理解したくない、しない方がいいと黄色信号を出していた。 黄色い固まりに黄色信号。 織田。お願いだから睨んでないで何か言ってくれ。何でもいいから喋ってくれないと、俺の脳内は黄色で溢れてキャパオーバーを起こしそうなんだ。 必死な顔をしているだろう俺から視線を外すと、織田は黄色い塊をぽちゃんと湯に沈める。 すぐに浮力で浮き上がってきた黄色を見つめながら織田はやっと口を開いてくれた。 「アヒルに決まってんだろ。他に何に見えるんだよ」 湯の上でふらふらと揺れる黄色を再び掴んで、織田は当たり前の事を言うみたいに答える。常識だろと言わんばかりのニュアンスに、ぁあ〜!なるほどね!と脳内で手を打った。 「はいはい!アヒルね!アヒルアヒル!アヒルだよな…ア、ヒル……ア…ってそうじゃねーだろ!?」 アヒルのゲシュタルト崩壊しそう。 「なんでアヒルがお前と一緒に入浴しちゃってるわけ!?」 「俺が入れたからだ」 「はあ!?」 「うるせえ。カナコちゃんが怖がってるだろ」 「ウソ!?織田キモ!真面目にキモ!!」 「あ゛ぁ!?カナコちゃんの悪口言ってんじゃねえよ!」 「どんなプラス思考だよ!どう考えたってお前のことだよ!!?」 気付いてくれ。どこからどう見てもおかしいのはお前だ、織田。 扉を開けた俺の視線の先には綺麗な顔を凄ませてキレる織田と――そんな織田をつぶらな瞳で見上げるカナコちゃんと呼ばれるアヒルのおもちゃだった。 クリーム色のバスタブと、入浴剤を入れたのか同じようなクリーム色の湯の上に浮かぶ黄色は色んな意味で目に痛い。 神様の子供だと言われても疑わない程の美貌を持つ男がアヒルと一緒にご入浴、だと? しかも、カナコちゃんという名前までつけて? なんの冗談だ、これは。 面白過ぎて逆に全っ然笑えない。 いくら織田の容姿が、あの律も一目惚れしちゃうくらいのスーパーSクラス級の美人だろうと可愛かろうと、その前に俺と同じ男だ。野郎だ。 正直ちょっと怖いです。 なんなの、そのギャップ。 いる?いらないよね?
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