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04
突然のことに咄嗟の判断が出来ず、受け身を取ることもできないまま衝撃で体が床に沈んだ。
「い゛ッ…つぅ…!!!」
後から来る痛みに眉をしかめるが、痛みを本格的に意識する前に、俺に馬乗りになってきた織田の重さに恐怖を感じた。
また殴られる――!!?
本能的に頭を守ってみたが、何故か痛みは襲って来ない。それどころか織田は覆いかぶさるように上体を下げてきて、俺の体をふわりと抱き締めた。
「………え…?」
「……と…も…」
織田が俺を呼ぶ。
アンタ、としか呼ばないその口が苦しそうに、切なそうに、俺の名を呼んだ。
訳のわからない展開に困惑して一瞬思考が停止した。
いきなり殴られたかと思えば抱き締められ、名を呼ばれた。それも強気な織田からは想像出来ないような弱々しい響きだ。
俺は声を出すことも出来ず顔だけを上げたまま、織田の強く抱き締めて来る力に固まってしまった。
「っわ…!」
暫くそうしていると突然織田の体がグンッと重くなり、体重を支え切れず後頭部を軽く打つ。
今度は何だ!?と身構えると体の上から、スー、スーと規則正しい寝息が聞こえてくるではないか。
「………寝んのかよ」
さすがに苛立ちを感じ文句を言うが、織田は起きる気配さえ無かった。
なんだよ。意味分かんねえ。
もしかして、今までのは寝惚けてたってことか?
だとしたら俺可哀想すぎじゃない…?
「んぉー…痛い。ありえない。信じられない」
織田の寝起きの悪さに、カナコちゃんとの入浴シーン以上にドン引きしながら何とか織田の下から這い出る。
ヒリヒリと痛む頬を冷やすため、棚から氷嚢を取り出し氷水を入れた。
「~~っ、こいつ本気で殴るんだもんな…イテッ」
口の中を切ったらしく舌で探っていると痛みが走った。
つーか、一瞬のことでちゃんと見れなかったけど、多分あいつグーで殴りやがったよな?グーで殴られたことなんて初めてなんですけど!なんなら普通にパーで殴られたこともねえよ。
イライラしながら氷嚢を頬に当てる。頬から伝わる冷たさに痛みが和らいでいく。
熱が引いていくのにつれて、気持ちの方もなんとか落ち着いてきた。
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