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だいたい律が俺のことを「智」なんて愛称も何もなく呼ぶときは大抵怒っている時だ。 「……別に殴られたわけじゃない…。ただ、今日久しぶりに朝風呂入ったんだよ。そしたら寝惚けて転んで、床に顔からダイブした」 「……はぁ?」 「信じてないな?ホントだぞ!お前も顔からダイブしてみろよ!マジで痛いから!」 「…痛いのは痛いだろうけど、そんなんで普通そこまでなる?」 「なったんだから仕方ないだろ!つーか、もういいから離せって。打った後すぐ冷やしたから大した事ねえし、すぐ治るよ」 「………」 「いっ…」 やっと納得したのか腕を離してくれたと思ったら、離れた手は顔の方に伸びて来て俺の口端に触れた。 ちょうど青アザのある部分だ。 律の顔を見上げると、なんとも言えない複雑そうな顔をしている。 なんだなんだ、その顔は!イケメンなんだからもっとシャキッとしろよ! というか、ちょっと嫌な予感がするんだけど… 「………おい…やめろよ…痛いんだから…押すんじゃねーぞ。フリじゃねーからな…」 無言で青アザの跡をなぞる指先に、いつ予感が的中しやしないかとヒヤヒヤしながら忠告すれば、ようやく律の口元が緩んだ。 「それ、どう考えてもフリでしょ?」 「ッいぃ、ってェッ!?痛えわ!ありえね!離せ!馬鹿!最悪!もおおお」 力一杯とはいかなくてもまあまあな力加減で青アザを押され、痛みにしゃがみ込む。 やると思った!絶対やると思った! 「なんでお前はいっつも俺の青アザ押したがるんだよ!ドSかよ!」 「そんな面白すぎる反応する智ちゃんが悪いと思いまーす」 「面白がるな…!もうほんと最悪!お前なんて犬のうんこ踏めばいいのに」 「校内に犬居ないし。てか心配した俺に対して酷い言い草じゃない?もう俺ショック…。バイバイ智ちゃん…俺、先行くね」 ガチャと扉を開けてワザとらしく出て行こうとする律に、思わず俺はそのジャケットの裾をガシッと掴んだ。 「いや、ここまで来たんなら一緒に行けばいいだろ!なに拗ねてんだよ」 「拗ねてねーしー?俺は智ちゃんに怒ってんの!俺は智ちゃんが誰かに殴られたのかと思って心配してあげたのに、風呂場でこけるとか鈍臭過ぎて信じらんないし、なんでもねえとか言うし…」 怒ってると言いながら智ちゃんと呼ぶ律は多分怒ってない。 俺は急いで靴を履いて律と一緒に廊下に出た。

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