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「俺、先に戻るわ」
「え、なんで?」
「トイレ行きたい」
「食堂の使えばいいじゃん」
「察しろよ!バカ!」
律のおバカさん発動。こいつはいっつもそうだ。周りに何かを言われても気付かない。気付いたとしても、気にしない。勝手に言わせとけば?スタイルだ。
俺だって気にしてるように思われたくないけど、残念ながら陰口最高!なんてサイコパスじゃないので律を無視して席を立つ。
いつもなら1人にさせるのも悪いので我慢して待っているが、今日は別だ。
律の想い人、織田がいる。
むしろ2人にさせるのは律にとっても好都合だろう。
なのに――
「人がまだ食ってんだから、待っとけよ」
「えっ」
まさかの隣に居た織田に腕を掴まれた。
初めて織田の方から触れて来られてビックリしてしまった。殴られたのは触れたとは言わないしノーカンだ。
嫌っているであろう俺に自ら触れてくるなんて予想外過ぎて一瞬固まってしまう。律も俺同様少し驚いたみたいだった。
「えーと…玲哉の言う通りだよね。もうちょっとで俺らも食べ終わるから待っててよ、智ちゃん。そしたらトイレ行こ?」
「…………しょうがねえな」
別にそこまでトイレに行きたいわけではないが、やはり律は気付いていないらしい。
織田は…どうなんだろう。
聞こえていないのか、気付いているのか。こいつの考えてることはよく分からない。ただ少し笑われた気がした。
ーーー
午後の授業も終わり、律が足早に部活に走って行くのを見届けたあと俺も今日はさっさと帰ろうと教室を出る。
「おい、イインチョー」
「んあ?」
イインチョー、と小馬鹿にしたように呼ばれ後ろを振り向くと、織田がカバンを手にして立っていた。
「織田か。なんだよ」
「アンタさ、イインチョーなんだから転入生の何も分からない可哀想な俺に学校案内とかしたらどうなの?なんのためのイインチョーだよ」
「…お前な…それが人にものを頼む態度かよ」
「あ。センセェ、イインチョーに学校案内断られましたー」
「え!?」
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