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06
朝のホームルームが始まるギリギリ前に、律が教室に飛び込んで来た。
「ギリギリセーフだな、律。おはよ」
「ハァ、智ちゃ、ん!オハヨー」
朝練が長引いたんだろうか。律にしては珍しく息が切れている。
「大丈夫か?」
「んー、大丈夫じゃないー。疲れた…」
席に着くなり、机に倒れ込んだ律に何事かと心配になる。
「お前がそんなんなってるの珍しいな。部活ハードだった?」
「うん?…うん、まあそんなところかな。智ちゃん~授業サボろー?」
「何だいきなり!教室に来たんだからサボっちゃ駄目だろ。頑張れよ」
サボろうなんて誘われたの初めてだ。真面目キャラでもないけど一緒に不真面目しようなんて律らしくない。一体どうしたと言うんだ。
「ホームルームだけサボっちゃ駄目ー?」
「駄目。てか、もう先生来るし」
「……うえー」
律が苦虫を潰したような顔で唸る。そんな顔したって駄目なもんは駄目だ。こんな微妙な時間に教室抜けたって廊下で先生と出くわすのがオチに決まってる。
俺の意思が固いと分かったのか律はこちらを向いたまま机に突っ伏した。
「……じゃあ、あとで俺の聞くことにちゃんと答えてね」
「?…あぁ、分かった」
なんだろう?ピンとこ無くて首を捻る。
しかし、律があんなに急いで聞きたがることなんて、少し考えれば直ぐ分かることだった。
「智ちゃんが玲哉とデキてるなんて、ただの噂だよね?」
ホームルームが終わった途端に連れションしようと、トイレに引っ張られた俺は、結局トイレではなく階段の踊り場に連れてこられていた。
「…それ、誰から聞いたんだ?」
「朝、元カレに捕まって智ちゃんと玲哉の話聞かされた。そんなのあり得ないって分かってるけど、なんか気になって…」
思った以上に噂が回るのは早かったらしく、既に律の耳に入ってしまったようだ。
――ああ、もう。
そんな不安そうな顔すんな。
「律。よく聞け」
「うん」
「俺は昨日お前の告白を目の前で見てただろ?」
「智ちゃんが口滑らせちゃったからね」
「うっ…その節はすいませんでした…っじゃなくて!俺はちゃんとお前におめでとうって言っただろ?」
「うん、言ってた」
「織田が律と付き合ってるって認識してるのに、俺が織田と付き合うと思うか?そもそも俺がノンケなの忘れてるだろ」
「智ちゃんがノンケなのは知ってるし、浮気してるとかそういうことを疑ってるわけじゃなくて」
律が何かを考えながら言葉を選ぶ。
「なんで玲哉とデキてるなんて噂が流れるのかな…と思って」
あー、そっちか。
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