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どうやら俺のことを知っている口振りの織田。 その織田が持っていた【とも】と書かれたおもちゃのアヒル。 もし、仮にあれが俺のことだったとしたら………? 「…いやいやいや、ありえない。そもそもホントに俺知らねえし。ていうか織田の思い違いって可能性の方が高いしな」 良くも悪くも普通な人を極めてる俺だ。 俺みたいなやつ多分どこにでもいると思う。思い違いである可能性の方が確率的には高い。 だとすれば、どうやって織田の勘違いを正せばいいんだろう。 俺はバスタブを磨きながら、うーんうーんとそれから30分近く頭を悩ませていたが、結局有効そうな手は思い付かなかった。 ーーー 「よし!」 カレンダーの今日の日付のところに、自分の名前を書いてグルリとマルをする。今日は末永が掃除しましたよ、という印だ。 俺はこの部屋の家政婦でもなんでもないので、次は織田にやらせる。カレンダーのことも帰ってきたら教えてやらねば。 「いや~、いい感じ。スッキリしたー」 部屋を見渡すと整理整頓が行き届き、床も心なしかピカピカと輝いて見える。 1年のときに同室だったやつの1人が毎日掃除を徹底的にやらないと気が済まないような神経質な奴だったから、俺の掃除スキルはその1年でだいぶ向上した。 春休み、久しぶりに自宅に帰省したときなんか、俺の掃除の完璧ぶりに母親が感嘆の声を上げたほどだ。 織田も本人の荷物が少ないという事もあるが、散らかしたりしないし使ったら元に戻すという習慣が出来ているので掃除をするのも楽でいい。 細かいことまで言えばゴミの分別もちゃんとするし、トイレのフタも必ず閉めるので、同居人としては最高だ。きっと律だとこうはいかない。俺が折れるか律を徹底的に教育し直すかのどちらかで疲弊する未来しか見えない。 織田と生活習慣はバッチリ気が合うんだ。あとは俺を毛嫌いせず、普通に接しさえしてくれればなんの不満もないんだけど。 「…そこだけなんだよな~」 むしろ、そこが一番の問題というか。 でも初日よりはだいぶマシになったと思う。 好かれてはないと思うけど、話し掛けても無視しなくなったし飯も一緒に食べてるし険悪というほどでもない。 あ、飯といえば今日の夜なに作ろ。 昨日が洋食だったから今日は和食とかかな。 俺は冷蔵庫の中にストックしている食材を見ながら、のんびり何を作るか考えることにした。

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