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19時を少し回った頃、玄関から鍵を開ける音がして、睨めっこをしていたノートから顔を上げた。自分の机で明日の予習をしていた俺は、椅子を鳴らして席を立つ。
どうやら織田が帰ってきたようだ。
制服のネクタイを緩めながら部屋に入ってきてカバンをテーブルの脇に投げた。
「おかえりー」
「ん」
短く返事をした織田はシュルリとネクタイを外すと首元のボタンを2つほど外して、勢い良くソファーに倒れ込んだ。
「え?…おい。大丈夫か?」
「……」
「織田?」
「………うるさい…」
駄目だこいつ。
心配している俺に向かって、うるさいとは何事か。
話し掛けるのはやめて俺はキッチンに向かい、味噌汁の入っている鍋に火を付けた。
一応織田が帰って来るのを待っていたが、もう腹ペコだ。
ほとんど出来上がりの味噌がかかった鯖も最後の数分だけ煮込む。冷蔵庫にストックしている常備菜も小皿に盛った。
自炊を始めてから世の主婦たちが常備菜常備菜と口を揃えていう気持ちが俺にもわかるようになった。あと一品欲しい、野菜も取りたい、そんなときに作っておくと超便利。
いくら料理をするのが好きだと言っても毎日一から作るのは面倒臭い時とかあるしな。俺の主婦度上がってる、確実に。
今晩のメインである鯖の味噌煮を中皿に置いて、温め直した味噌汁も器に注ぐとそれらを織田が倒れているテーブルの上にどんどん置いていく。
自分の分は自分の定位置の机に置いていると、やっと織田が起き上がった。
「…………サバ……」
ボソリと呟いて目の前に並べられた晩御飯達を眺めている。
「飲み物は自分で入れろよ」
「……アンタ……ほんとに男か?」
「なんだその男女差別的発言。いまどき男も料理できねえと結婚できねえぞ。つーか、この学校そういうの推奨してんの。知らずに入ってきたわけじゃないよな?」
「俺、お茶がいい」
「無視か。てか自分で入れろって言っただろ!」
とは言いつつも冷蔵庫の近くに居たので、仕方なく織田の分のお茶も入れてテーブルに置いてやる。
「そういえば律は一緒じゃねーの?」
「…部のやつらに誘われて食堂に連れてかれた」
「はいはい、なるほど」
バスケ部の人達、律のこと大好きだからな。今までも俺と飯の約束してないときは基本バスケ部と飯食いに行ってたし。
心なしか不機嫌そうな顔つきになる織田。
そういうの関心なさそうに見えるけど、やっぱ恋人とは一緒に飯食いたいよなあ。寂しいんだろ?
「…お前が一緒に食べようって言えば、律はお前のこと優先してくれると思うけど」
「は?…なんだそりゃ。イタダキマス」
口を歪めたかと思うと織田は行儀良く両手を合わせた。
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