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今思えばあの頃から尽くす、というか世話焼きの根性は出てたんだろうな。 しかし俺なりにあれだけ尽くしたのにも関わらず、物の見事に2週間で振られた。早過ぎて手を繋ぐことすら出来なかった。 中学生だし清いお付き合いで良かったとは思うが、いくらなんでも清すぎるし早過ぎる…。付き合ったと言えるのかどうかも怪しいほど。 しかも振られた原因はまさかの律のことが好きになっちゃった!なんていう漫画とかでよくあるやつだった。 今以上に俺にべったりだった律。 俺と付き合う事で、必然的に律との接点も増えた彼女は、律の魅力に気付いてしまったなんていう至極単純な理由だった。 織田にからかわれて思い出したくもない黒歴史まで思い出してしまい、恥ずかしかった気持ちはどこへやら。 スン、と気持ちが冷めてしまった。 「もういいや。俺も風呂入るわ。買い出しついてくるかどうかは日曜までに決めといて」 「普通に美味いけど」 「…………え?」 いま、なんて? 「不味いもん完食なんかしねーだろ。アンタ見てるとイライラするけど、飯だけは、まあ…いいんじゃない?」 「……っデレるなら完全にデレてよね!!」 イライラするのくだりさえ無ければ、純粋に織田の言葉に感動できたのに。動揺して何故か俺がツンデレみたいな台詞を返してしまった。 「うるせえな。とにかく日曜、ついてってやるから魚買えよ」 「魚?好きなのか?」 コクリ、と素直に頷いた織田にちょっと可愛いと思ってしまった俺。 そうか。織田は魚が好きなのか。 じゃあ今日の鯖の味噌煮は多分嬉しかったんだな。俺に対してちょっと優しかったのもそのせいか。思い返してみると今日の会話量凄いもんな。 「じゃあ今度魚いっぱい買おうな!」 「よろしく。俺はもう寝る」 笑顔の俺に真顔で答えた織田は、もはや見慣れてきつつあるパンツ一丁のままでハシゴを登り、自分のベッドへ潜り込んでしまった。 「もう寝んの!?はっや…」 まだ21:30とかなんですけど。 お前はお爺ちゃんか。 つーか、食器洗うんじゃなかったんかい。 どうやら忘れてしまったらしい。 仕方ない。今は気分がいいので風呂から出たら明日の弁当の準備がてら洗ってやろう。 そう思ってシャワーを浴びてから出ると、食器は全て洗い終え水切りラックに立て掛けられていた。 「…あれ、思い出したんだ」 やっぱ律儀な奴。意外だと言えば怒られるだろうな、間違いなく。 食器のことを思い出してパンツ一丁で洗い物をする織田を思い浮かべて俺は1人クスリ、と笑った。

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