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「智ちゃんなんでドッチ?バスケは?」
「バスケは去年で懲りた。俺にバスケは向いてない」
「なんでー?俺がいるから大丈夫だよ」
「そういう問題ではなくてだな…今年はなるべくお荷物にならない種目で頑張ろうかと」
「えーーー」
「別にいいだろ!バスケには織田が居るんだから」
「そりゃそうだけどー」
「そりゃそうなのかよ。ちょっとは否定しろって」
「気持ちに嘘はつけない」
「…くっ、知ってるよ!お前はそういう奴だ!」
「はい、そこうるさーい。静かにー」
「あ、すんません」
「はーい」
いつもは喋っていても注意なんてしてこないハッシー先生だったのに、ビシッとファイルでこちらを指してきて驚いた。
これはあれか?
織田と付き合ってる律に対しての小さな嫌がらせか。
なんて心の狭い男なんだ、と思うのと同時に俺、巻き込まれただけじゃね?とウンザリした。
ハッシー先生の終了の合図とともにホームルームが終わり、さっさと部屋に帰ろうとカバンに手をかける。隣では同じように部活に行くために立ち上がっていた律と、ぱっと目が合った。
そういえば。
「あ、律」
「ん?」
「あのさ、今日朝電話で何か言いかけたよな?あれなんだったんだ」
「…なんか言いかけたっけ?覚えてなーい」
律は首を傾げてにこりと笑う。
「言いかけたよ。なんでもないって言ったじゃん」
「ん~、分かんない。まあでも覚えてないくらいだから、大したことじゃないでしょ。気にしない気にしない」
本当に覚えてないのか言いたくないのか律は笑顔のまま俺の頭を撫でた。
うおおおやめろ!いくら自分の背の方が高いからって同い年の男の頭を撫でるんじゃない!なんて叫びたいところだが、律に撫でられるのが実はそんなに嫌いじゃない俺なのでここは、まあ、仕方ない。我慢してやる。
「行かないのか、律」
「んぉっ…!?」
そこに突然後ろからカバンを肩に掛けた織田が現れた。気配を感じなかった。驚いて変な声が出るのと同時に後退ると、律の手が自然と離れる。
「行く行く。んじゃあねえ、智ちゃん」
俺の頭から離した手をヒラヒラと振って、織田と教室を出て行ってしまった。
しかしすぐに織田だけ戻って来て、俺の前で立ち止まる。顔は笑いもせず、無表情のままだ。
何だか機嫌の悪そうな気もするが…もしや、朝揉めてたことを今言うつもりか!?
「ど、どーした」
「今日、晩飯いらないから」
「…あ、そーなの?了解」
端的にそれだけを口にすると、織田はさっさと教室を出て行ってしまった。
なんだそっちか。身構えて損した。律とでも食べてくるのかね。
あいつ態度は悪いけどそう悪いとこばっかじゃない。こういうところは嫌いじゃない。むしろ好感が持てる。
報連相がしっかりしてる織田に、少しだけ見直した俺だった。
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