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02
男だと分かった途端、正直あまり可愛いと思わなくなったが、織田には劣るものの充分整った顔立ちをしていて可愛いと分類される。律が好きそうな顔だ。体つきも女の子のように小さく華奢で、女装なんかされたらきっと騙されてしまうんじゃないかと思うレベルだと思う。
律ならまだしも俺にこんな可愛い系の知り合いなんていないけどな、なんて首を捻っていると彼はもう一度俺の名前を口にする。
「やっぱりその顔、ともちゃんだ。ぼくのこと、覚えてない?」
「え、…うん。ごめんけど、思い出せない」
申し訳ないね、という顔を作ると可愛い男子はチワワみたいに首を傾げた。律がいつもやるようなのとは違い本当に可愛いやつだ。目が大きいから本当にチワワみたい。これで目が潤んでたら完璧だけど、俺に潤ませる必要はないらしい。
「ぼく、律くんの元カレの薫 だよ。キミとも挨拶したことあるんだけど」
「薫、くん…?」
薫、かおる、カオル……そういえばそんな女みたいな名前の子がいたような。律の元カレ多過ぎて覚えてないんだよな。
腕を組んで考えていると、薫くんは少しイラついたように身を乗り出してきた。
「一応この高校で律くんと、最初に!付き合ったんだけど」
「あ!あ~~わかった!わかった!カオルちゃんね!そうだそうだ。思い出した。スッキリした~」
「……薫ちゃん、か。律くんがよくそう呼んでくれてたっけ…」
少し寂しそうな顔をして遠くを見るカオルちゃん、もとい薫くん。
いきなりそんな感慨深い顔をされても俺はなにもしてやれない。なんなら律は基本みんな、ちゃん付けで呼ぶし。
そういえば、抵抗されたからとはいえ織田だけだな。ちゃん付けしてないの。
遠い世界に行きそうになっていた薫くんだったが、再びぐっとこちらに近付いてきた。男の匂いとは思えないようなフローラルで甘い香りが鼻腔をくすぐる。女物の香水でもつけてるんだろうか。くしゃみが出そう。
「ねえ!キミいいの?あんなポッと出に律くん取られて」
「ポット?de?何言ってんだ?」
「何言ってんだじゃないよ!キミのところに入ってきた転入生!本当は律くんと付き合ってるんでしょ?」
「あ、そうそう!そうなんだよ!俺じゃなくてね、律と付き合ってんの」
本当は、と言ってくるってことは俺との噂も聞いたってことだよな。意外と早く俺と織田の仲が誤解だって正しい情報が広まってるみたいで嬉しい。
律がちゃんと言ってくれてるってことだ。ナイス律!と心の中で喜んでいると薫くんは大きな瞳をキッと釣り上げて俺を睨み付けてきた。
「しっかりしなよ!…ぼく律くんがまたフリーになったって聞いたから、ヨリ戻そうって言おうと思ったのに…あんな突然表れた人に取られるなんて…」
「お、おう…それは残念だったね」
まあそれを俺に言われてもどうしようもないんだけどな。
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