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07
小さな声で呟く声が聞こえたが、俺は寝たフリを決め込んでいるので反応はしない。髪を梳くように触れていた手がそっと離れた。
「…仲良いんだな」
「智ちゃん?」
「ああ。親友、なんだっけ?」
「うん、そーだよ。小学校から…ずっと一緒だからね」
「…ふーん」
織田の少し不機嫌そうな声が聞こえた。
「…嫉妬してる?」
律がいつもより落とした声で囁いた。
誰が、誰に、とは言わない。
でも多分そういうことだろう、と俺は洞察力を働かせて察する。俺は2人に背を向けたまま、律の問いかけで部屋の空気が少し変わったことを敏感に感じ取ってしまった。
織田は肯定も否定もしなかった。
――こ、これは、もしや、
甘ーい雰囲気出してない…?
壁の方を向いているので、背後で2人がどういう表情をしてどういう位置取りをしているかも分からないが無言なのが怖い。
なに?なんで無言なの?喋らないの?見つめ合ってる的な?お願いだからなんか喋って!?
顔見知り同士の甘々っぽい展開に俺は壁に向かって思いっきり目を開けた。
とりあえずここで変なことするのはやめろよ!?俺、起きてますからね!!!
もちろん目を開けたところで壁しか見えない。ここにきて寝たフリをかましたことを後悔した。
「…そういえば、この前智ちゃんにこの部屋ではイチャつくなって言われたんだった」
静寂を破ったのは律だった。
律が静かに笑いながらそう言うのが聞こえて、素晴らしいぞ律!よくぞ思い出したな!褒めてつかわす!と心の中で両手を胸の前に結んで賛辞を述べる。
「そんなこと言ってたのか?…相変わらず面倒臭いやつ」
「そーお?でも可愛いとこもあるんだよ、ああ見えて」
織田は寝てる俺にも辛辣らしい。
さらに律のフォローがなんとも言えない気持ちになる。
「玲哉、今日は歓迎会参加してくれてありがとねー。皆すっげー喜んでた」
話を変えた律が嬉しそうに言った。
今日歓迎会だったから晩飯がいらなかったのか。なるほどね、と1人納得する。
つーか歓迎会開くの超早えな。
バスケ部の人達は織田の入部に相当テンションが上がってるらしい。
そんなに早く歓迎会なんてやられたら、退部しようと思ってもすぐにはできないだろう。
むしろそれが狙いか?
「……別に。あいつがうるさいから仕方なく」
「あいつって、智ちゃん?…なんだかんだ言って2人も仲良いよねぇ?」
「そうか?むしろ逆だと思うけど」
織田の言葉に心の中で頷く。
そうだ、別に仲良くはない。今の所、毎日喧嘩してるし。喧嘩するほど仲がいいというセオリーには当てはまらない程、険悪な時もある。
仲良くなれるものなら仲良くなりたいと思わない事もないが、向こうにその気が全く無さそうなのできっと無理。
「仲良いよ。俺の方こそ嫉妬しちゃいそうだもん」
律の甘えたような声が聞こえる。拗ねてる時によく使うやつだ。
それに対して織田はなにも言わなかった。
肩を叩いたのか頭を撫でたのか抱き締めたのか、服が擦れる音がしただけだった。
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