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09
つーか律全然来ねえじゃん。
早く来てくれないと、織田とのツーショットを噂好きの奴らに目撃されてしまう。割と朝早い時間に来たので今の所、他の生徒とは出くわしていないが、もう面倒はごめんだ。
「ほら、魚だぞ。好きなの選べ」
まるで子供に言うように言うと織田にジロリと睨まれだが、言い返してくることなく小さな鮮魚コーナーに足早に向かっていく。
俺はその間に豆腐を買おうと近くの棚に足を向けると、視界の端にこちらに向かって走ってくる姿が見えた。…やっと来たか。
「智ちゃん、ごめん!お待たせ~」
「律ー、遅いぞー」
「ごめんね~?荷物持つから許して!……あれ、カゴは?」
律が俺の左右を見渡してキョトンとする。
「あー、カゴなら、あっちに…」
視線を後ろに向ける。
ポケットに片手を突っ込んだまま前屈みになりながら、真剣に魚を選んでいる織田が見えた。何をそんなに悩むことがあるんだか、ちょっと面白くてフッと笑ってしまう。
「玲哉?」
「あいつ真剣過ぎるだろ」
笑いながら律に向き直ると、律は織田を見つけたまま珍しく驚いた顔をしていた。
「…なんで、玲哉がここにいるの?」
「なんでって…あいつにも飯作ってやってるから、強制的に参加させた、んだけど…………」
聞いてないの?
と最後まで言う前に、やってしまったと気付いた。
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