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08
…なに?
なにを言われたんだ?
居ても立っても居られず俺はベンチを離れ、コートのある下へ階段を駆け下りる。試合中なのは自分のクラスだし、近寄るのは問題無いはずだ。コートの側まで降りると再びホイッスルが鳴る。休憩か?ちょうど良かった!
律達がコートの外へ出てきたので俺もすぐに駆け寄っていく。
「おい!大丈夫か?」
ドッチに励んでいるはずの俺の突然の登場に2人とも驚き顔を見合わせたあと、織田はすぐに機嫌の悪そうな顔に戻った。
「これが大丈夫そうに見えるのかよ」
「玲哉、俺ちょっと審判と話してくるよ。さっきの以外にも結構接触あったでしょ」
「いや無理だろ。接触っちゃ接触だけど、あんな分かりづらいやつ。よくやる。それにあいつ1年だろ?」
「ん~、そうなんだよね。ちょっと気の弱い子で…まあとにかくちょっと相談してくるから」
困った顔をしながら律は織田の元を離れ、同じ部員である審判の元へ駆けて行く。自分の恋人の痛々しい姿に胸を痛めてるんだろうな。分からなくもない。
「なあ、織田さっき先輩達に何て言われたんだ?」
「さっき?」
1人残った織田に尋ねると無表情で首を捻る。ついさっきのこともう忘れたのかよ…とドン引きしそうになったが俺の言っている意味が分かったのか、ああ、と言葉を続けた。
「律と付き合ってると痛い目見るぜ。はやく別れろよ」
「……ほう……また典型的な…」
さして興味も無いのか録音したように3年生の言葉を繰り返してくれたが、一体どういうことだろう。
なんでここで律の名前が出てくるんだ?
痛い目見るぞなんて、俺が良く可愛い系に呼び出されて言われていたような脅し文句じゃないか。
あんな律信者でもなさそうな先輩の口から飛び出す言葉としては違和感しかない。
…それとも実は律が好きとか?その場合彼らは律をどうしたいんだろう。多分掘らせては貰えないぞ。想像したくないけど、先輩たちがそっち側?
…ちょっと待てよ。
――可愛い系?
どうでもいいことを考えていた俺の脳内に、1人の人物がぼやっと浮かぶ。数日前に絡んだ美少女と間違えるような可愛い男子生徒。
彼がまるで呪いをかけるように呟いていた言葉が脳裏を過 ぎった。
『…でもぼくはあんな顔だけのやつ認めない…絶対に』
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