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バッと勢い良く先程まで居た観覧席に目を向けた。ハラハラしているバスケ部員達や、俺の悪口を言って居た奴ら、そこから少し離れた場所に先日不穏な言葉を吐いてきた薫くんの姿を見つけた。
壁に背を預けるように佇んでいる姿はどこからどう見ても美少女なのに、立ち姿がニヒルでアンバランス。それが余計に俺の目からは目立って見えて、すぐに分かった。
薫くんもこちらを見ていたのか観覧席を見上げた俺と目が合うと、にんまりと気分の良くない笑みを浮かべる。
…あ!
あーーー!!あいつ…!あいつか!
何お約束なことしてんだよ!?
あまりにもベタな悪役のような笑みを浮かべるものだがら、瞬時に薫くんの仕業だと理解してしまった。もう少し推理めいたことでもしようかと思っていたのに。
どうせ可愛い薫くんに頼まれて3年生の先輩たちが、織田にちょっかいを出してきたんだろ。あんだけ可愛けりゃちょっと目を潤ませてお願いすりゃイチコロだ。明解も明解。俺は引っかからないけどね!
というか俺に対してあんな台詞を吐き捨てておいてバレないとでも思ったのか?あるいはバレてもいいと思ってる、か。
何にせよ原因が分かったのならば善は急げと言うのを忘れ……不確定要素が多すぎて、敢えて!敢えてまだ言えてなかったことを伝えた。
「織田、お前律の元カレから逆恨みされてるわ!」
「……ハァ?」
突然の言葉に意味がわからないと顔を歪めるので、仕方なく先日あった事を掻い摘んで説明していく。
最後に解決策として「薫くんは律の元カレだから律が戻ってきたら止めさせるよう俺から言うわ」と告げると織田はまた無表情になり、先程俺が見上げた場所を見上る。
「あの壁際にいる女みたいなやつか?」
女みたいってお前が言うか?という言葉を飲み込んで頷くと、織田は口角を上げて面白いものでも見つけた子供みたいに笑った。
「…!」
――言葉を間違えた。
子供はあんな邪悪に笑わない。
被害者なのは織田なのにその悪魔の笑みを見た瞬間「あれ?俺もしかして言う相手間違った?律にだけ言ったほうが良かった?」なんていう思いと共に「薫くんがヤバイ」という加害者を心配する気持ちと変な焦りが湧いてくる。
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