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苛立ちのドーベルマン
コン、コン、コン
礼儀正しくきちんと3回ドアを叩いて耳を澄ませる。
「………」
中からの反応は無し。保健の先生も球技大会中だから忙しくしてるのか。
でも俺は保健の先生に用があるわけではないので、躊躇うことなく引き戸のドアを開けると中から保健室独特の消毒液の匂いがした。ガランとした室内。やっぱり先生は居ないみたいだ。
体調の悪い生徒が体を休められるように室内にはベッドが3つ並んでいて、その中の1つだけ白いカーテンが引かれている。
多分、織田がいるんじゃないかとは思うのだが、違ったら気まず過ぎるので恐る恐るカーテンの隙間からソッと覗いてみた。
目に入ったのはサラリとした柔らかそうで艶のある蜂蜜色の髪。
――やっぱりここに居たのか。
カーテンの中では、織田が片方の腕で目を覆うように横になっていた。黙っていれば清廉な白がよく似合う。
静かに上下する胸を確認して、ただ寝てるだけだとホッとした。色々と気を揉んでいたが、杞憂だったみたいだな。
無事にスヤスヤ寝てるのならばなんら問題はない、とカーテンを閉じようとした時ピクリと織田の腕が動き、運悪く目を覚ましてしまった。
……や、別に運は悪くないんだけどね。
織田の寝起きは昼寝であったとしても、あまり遭遇したくないと思っているからか無意識に腰が引けてしまった。トラウマだらけだもんな、俺。可哀想に。
「………」
腕を少しだけずらして、長い睫毛の下で織田の瞳がカーテンの隙間から覗く俺を見上げた。腕の陰になってるというのにその瞳の色は強く、初めてこいつを見た時のハッとするような感情を思い出す。
そういや、こういうの映画とかで見たことある。
天界から地上に落ちてしまった天使が、初めて下界の人間と出会うという幻想的でかつ印象深いシーン。
ただ2つ違うのは映画で天使は女だけど目の前の天使は男だし、周りには真っ白な羽が落ちてるんじゃなくて現実はただのシーツだ。
「よ」
「…ストーカーかよ」
「…………お前なあ…」
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