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06
織田が苛立ちを隠さない低い声で呟く。
その声に一瞬。
ほんの一瞬だけだったが――鳥肌が立った。
「…アンタもさ、あのカオルとかいうやつみたいに泣いてみたら?その方がまだ可愛げもあるってもんだろ」
「…っふざけんな!泣かねえよ!つかっ、一番可愛げのないお前にだけは、言われたくないわ!」
強気に言い返してはいるものの、泣けよとでも言わんばかりの台詞にこちらまで苛立ちと、少しばかりの不安が募っていく。ほとんど体格的には同じな筈なのに、この力の差は一体何なんだ。どうしてこうも身動きがとれないんだよ。
「……じゃあ誰の前でなら泣くんだ」
「だから…!」
「律か?」
「は?」
「アンタの大好きな律の前でなら、みっともなく泣くんだろ。どーせ」
何…?
まさか、織田まで俺に嫉妬してるんじゃないだろうな。平凡な俺なんか織田の敵にもなりゃしねーよ。お前ライトな関係がちょうどいいって言っただろ。
誰かに嫉妬するなんて多分ありえないし、本当に訳が分からない。さっきから疑問だらけで頭がパンクしそうなんだけど。
「ムカつくんだよ」
織田が聞き取れるか微妙な声のトーンで、そう一言呟いたのが聞こえたと同時に、胸の上にあった重みが消えた。
だけど俺はムカつくの4文字がしっかり聞こえてしまっているわけで。
これで終わりだとは思わなかったが、次に起きたことはちょっと想像の範疇外過ぎた。
「え?なに?なに…なんでそんな顔近づけて……って、イヤアアアアアアアー!!?」
織田の顔が近付いて来て、ま、まさか…と少女漫画的ありえない想像をしたものの、あろうことかあいつは思いっきり俺の鎖骨付近の首元にガブリと噛み付いてきたのだ!
躊躇いも何もない。
俺がか弱いウサギで、織田がギラギラの牙を持つ狼……はちょっと格好良すぎるから、ドーベルマンだったなら(ドーベルマンも格好いいな…)今ので俺はお陀仏だ。一瞬で終わりだ。今までありがとう、美人コワイ…なんてダイイングメッセージを残す余裕もない。
それぐらいの勢いと強さで噛まれ、俺は物理的な痛みに目尻に涙が浮かぶ。ガブリなんて可愛い擬音を使ったが実際はガブリじゃない。
ガリッ、だ。
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