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08

風呂から出てパジャマ代わりのTシャツと短パンに着替えて部屋から出ると、織田はソファーに寝転がってうたた寝をしていた。 足首の辺りで軽くクロスされた両足をソファーの肘掛に乗せ、ダランと垂れ下がった腕の先には床に落ちた携帯。 スースーと静かに寝息を立てる顔は何度も言うが天使そのものだ。もう一生寝ててくれ、と言いそうになる。 黒のTシャツから覗く無防備な腹は色白で触り心地が良さそう。下はいつも通りパンツしか履いてないから骨盤から浮かぶ筋がなんとも…これ、ある意味目の毒だな。 あまり起こしたくはないのだが、起こさなかったら起こさなかったで文句を言われそうなので、起こすついでにその腹を仕舞ってやろうと手を伸ばす。 屈んだ時に頭を拭くように乗せていたタオルがはらりと織田の顔の上に落ちた。 「あ」 まだ全然乾かしてないけど、濡れた髪に置いていたのだ。まあそれなりに湿ってはいるわな。 ――ガッ、 「ひい!」 きめ細やかな腹に伸ばしていた手を、恐怖を覚える早さと強さで掴まれた。 織田は俺の手を掴んでいない方の手で、ほんのり濡れたタオルを顔からずらす。 現れたのはそれはもう不機嫌極まりないお顔。こわい。天使どこ行った。悪魔降臨だ。 「あー!ごめんごめん!マジごめん!ワザとじゃない。ほんとにワザとじゃない。お前が腹を冷やすと可哀想だと思ってだな…」 「……うるさ」 「ぅお…わ!?」 何故かそのまま引っ張られ俺の体は織田の上半身の上に。体勢的には…なんて言えばいいかな。まるで俺が寝てる織田に横から抱き着いてるみたいな…なんだ、これ。 「お、織田くん…?殴るのだけはやめてね…か、噛み付くのも禁止ね」 本当は飛び退きたいのだが、安定の馬鹿力で腕を掴まれているため飛び退けない。近くにある織田の顔に暴力反対と恐る恐る見上げてみれば、長い睫毛の下から蜂蜜色を濃くした瞳が俺を見つめている。 それだけなら良い。それだけなら今日もいつも通りお綺麗ね、なんて軽口だって叩ける。問題は美しい瞳の、その上だ。 めっちゃ眉間に皺寄ってるんですけど。

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