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「うっ…ごめんって言っただろ!?謝る人間にそれ以上するなんて最低だぞ…!」 「だからギャーギャー騒ぐな」 騒ぐなと言われてもだな。俺はみすみす黙って痛い目に合いたくはない。 しかもあまりに顔が近いと忘れようとしていたこいつとの初キッス事件を思い出してしまい心臓に良く無い。リップクリームを塗ってるとこなんて一度も見たことないのに、カサつき知らずの唇はつるんと血色よく、透明感があって綺麗だ。リップモデルにでもなれそうな薄すぎず厚すぎない形の良さ。 …この唇と俺はキスしてしまったのか… 「見過ぎ」 「イテッ!」 いつの間にかジッと見てしまっていたようでベチンッとあいている方の手で額を叩かれた。一度寝起きに本気で殴られたことを思えばかなり手加減してるんだろうけど、それでも痛い。額は鍛えようがないからな。 「っ、見てねえし!」 「思春期のガキみたいな反応しやがって」 「なんだよ、悪いかよ!絶賛思春期ですけど何か?お前もだろ!…つ、つーか言いたくはねーけどなあ、アレは俺の貴重な、激しくレアな…とってもとってもプレミアムな…」 「早く言え」 「痛ぇって!いちいち暴力を振るうな!」 「貴重でレアでプレミアムな何だよ」 「………………ふぁ、ファーストキスなんだぞ…!!!」 「………あぁ?」 言いたくないなら言わなければいいのに、と思うがもう遅い。自分から言い出したことなのに、頬を染めながらそんなことを叫ぶ俺はさぞかし滑稽に見えたことだろう。 織田の気の抜けたような台詞に、くそうと拳を握り締めた。 「あれがファーストキス?」 「そうだよ!俺の大切なツンデレで可愛い彼女に捧げる予定だったやつだぞ!それを、お前…男のお前に捧げるなんて…」 末永智、一生の不覚。 どうせ悪そうな悪魔の笑みでも浮かべられてんだろうなと思って視線を向けるが、想像とは真逆で、先程よりさらに眉間に皺を寄せている。 苛立ちを全く隠していない不機嫌極まりない顔がそこにあった。 え、なんで。

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