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織田は俺たち3人の視線を一身に浴びても動揺することなく、相変わらず面倒臭そうに溜息をこぼし秋刀魚を箸で崩しながら口を開いた。 「双子どころか兄妹なんて1人もいない」 「じゃあ一人っ子か」 「そうなるな」 藤白の問い掛けに短く返し、パクリと崩した魚の身を口に入れる。 もし織田に姉か妹でもいたら、律の姉ちゃんしかりそれはもう美人で麗しい女性だろうと勝手に想像したのに…残念だ。 織田の女の子バージョンなんてタイプ過ぎてヤバイ。そういえば俺がよく妄想するツンデレでちょっとツリ目な女の子は結構織田の顔に近いかも知れない。 ……そもそも俺はなんで、ああいう顔が好きなんだっけ。 不意によぎる疑問。気付いた時から妄想するのはその女の子だった気がするけど、どっかの漫画とかアニメとかに出てたわけじゃない。俺はアイドルにさして興味は無いから、アイドルでもない。どっかで見たんだろうけどどこだったかな… 思い出せそうで思い出せない歯痒さに「ん」に濁点を付けて頭を悩ませていたら、藤白に不思議そうな顔で見られて考えるのをやめた。ごほん、と一つ咳をする。 「やー、織田が一人っ子だったとわね…相当可愛がられてそうだよなお前。寮なんか入って親、寂しがってんじゃね?ただでさえこんな綺…、…麗しいんだし」 危な…!危うく綺麗と言いそうなったが、麗しいはセーフだろうか? 目ざとく反応されるかと思ったが織田は俺の失言を無視して「寂しがってなんかねーよ」と吐き捨てるように続けた。 「…そんなもんかね」 あまり触れられたく無さそうな空気を感じて俺はこれ以上踏み混むことをやめて、そう返す。この場に空気読めない君は2人もいらないからな。ま、各ご家庭色々あるでしょーよ。 「そうそう、いくら綺麗でも息子の親なんてそんなもんだろ。俺んとこも寂しがってたのは最初だけで最近じゃ帰ってきても、もう帰ってきたのか、とか言われるようになったよ。ひどいよな」 真の空気読めない担当(略してKY担)兼、ド天然だと思っていた藤白が笑う。意外と空気を読んでいるらしい発言に関心すると同時に、ピクッと織田の口の端が震えた。俺の横で律も敏感に気付いて、あららーみたいな顔をする。 …今、藤白くんは綺麗って言ったのかな? 馬鹿!あれほど禁句だって言ったのに!

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