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03
「俺の?…そりゃ別にいいけど、普通に食堂で食った方が美味いからな」
「やった。たのしみだ」
藤白の口からそんな要求が飛んでくるとは思わず驚いたが、断る理由もないので承諾の返事をする。
俺の返事に織田が眉間の皺を深くして、反対に藤白は先程よりも顔を綻ばせて笑った。破顔とはまさにこういうことを言うんだろう。
「…織田くんそんな顔しなくてもお前のお魚の量は変わんないから。他所の子にも分けてあげる優しさ見せた方がいいと思うよ」
あたかも飼い猫に言い聞かせるように織田を見ると、ぷいっと顔を背けられてしまった。うぐぐ、この間からこいつ機嫌良くねえんだよなあ。突っかかって来ないとそれはそれで寂しいというか…
俺はドMか。
ーーー
「末永ー」
「は!?…あ、はいはい。なんすか」
「なんでそんな驚くんだよ。先生の登場に嫌な顔するってダイレクトに傷付くんだけど」
「すんません。他意はないっす」
終礼が終わりさっさと帰ろうと荷物をまとめていると、一度教室から出ていったハッシー先生が気怠げに戻ってきた。
織田を狙ってたあたりからドン引きが続いていたので、対応が雑になる。1mmも反省してないが形だけは謝っておいた。
「なんか用事ですか?」
「用事がなけりゃ生徒になんか話し掛けないよ。末永にお仕事をあげよう」
「生徒になんか……お仕事?」
今日も絶好調でクズ教師ぶりを発揮するハッシー先生から渡されたのは、球技大会の時と同じようなA4の用紙だった。
見ると第68回 体育祭と書かれている。
その文字を見た瞬間、急激に気分が悪くなった気がした。
「…この前、球技大会やったばっかじゃないですか…」
「球技大会の次は体育祭って相場が決まってんだよ。お前らだってクソ熱い時期に外ではしゃぎたくないだろ?」
「それは、そうですけど…」
真夏に体育祭をやっていたのは何十年前の話か。つーか、はしゃぐってまるで俺たちが楽しくやってるみたいに言うな。
共学ならまだしも男子校の体育祭で楽しい事なんて何一つない。初夏の暑さにプラスしてむさ苦しさが増すだけだ。
「ま、そういうわけだから明日の朝、時間やるからよろしくな。委員長」
「…分かりました」
ハッシー先生は嫌な顔をする俺をニヤニヤと楽しそうに見て去って行った。生徒が嫌がることには興味があるってか。
………あれ?
でも体育祭って実行委員あったよな。
それこそ俺がクラス委員長になった時に体育祭実行委員とやらも別の奴に決まった筈だ。
それなのになんで俺が競技の割り振りすんの?おかしくね?あいつ絶対担当させる相手間違えてるだろ。
俺は眉根を寄せてまとめた荷物を手に持つと、今しがたハッシー先生が出て行った後を追うように教室を出た。
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