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ハッシー先生は思ったより歩くのが早く、追いつかないまま職員室に辿り着いてしまった。廊下から職員室を覗くと丁度ハッシー先生が自分の席に座ろうとしていて、いつも持ち歩いている黒いファイルで口元を隠して大欠伸をしている。やる気ねーな、ほんと。 「失礼します。2Bの末永です。橋本先生に用があって来ました」 扉の前で定型文を告げると、涙目のハッシー先生が顔を上げる。俺が来たことに不思議そうな顔をしながら「おー。なんだ?入っていいぞ」と許可が降りる。 職員室の中には何人か生徒も居てハッシー先生の元まで歩いていると、その内の一人の生徒から熱い視線を感じた。 「…末永?」 控えめに名を呼ばれて顔を向けると、そこには懐かしい顔。 久々に見る眼鏡に「おおお!」と大きな声を出してしまった。 「白鳥くんじゃん!久しぶり!」 「職員室で大きな声を出すな…!」 「え、ごめん」 久しぶりの再会に嬉しくなった俺だったが、相手には手厳しく一喝されて即座に謝る。 俺に熱い視線を送ってくれていたのは白鳥くんだった。白鳥(しらとり) (すばる)。 去年同室で俺に家事のイロハを、時に厳しく時に優しく教えてくれた同室者の1人だ。 フレームの細いオシャレな眼鏡がよく似合い、俺より委員長キャラが板についたインテリくんだ。格好いいってより綺麗って感じの顔をしてる彼だが、学年が上がってから何故か会う機会が極端に減ってしまい、こうして顔を合わせるのは本当に久しぶりだ。 「はいはいそこ感動の再会は後にしろー。先生忙しいんだから」 「あー、すぐ行きます!ごめんな白鳥くん」 「あ…いや、ああ」 久しぶりだというのにハッシー先生に呼ばれてしまい白鳥くんの元を後にする。 何か言いたげだったが仕方ない。ここは職員室。先生の言うことを聞かないと視界の端に映る生徒指導の先生から怒鳴られる。なんなら今まさに睨まれてる気がするし…ここは穏便に済ませとこ。 「先生、さっきの話なんですけど」 「体育祭のことか?なんか不都合?」 「不都合っていうか…純粋な疑問というか。明日する種目の割り振りって俺じゃなくて体育祭の実行委員がするもんなんじゃないんすか?」 「……………あぁ」 あぁ、じゃねえよ。あぁ、じゃ。 完全に今思い出した感じだろその相槌! 「そういやそんな委員もあったなあ。誰だっけ?」 「…知らないっす」 「えー?委員長なのに?…まあいいや。じゃあ明日は末永何もしなくていいよ。ご苦労さん」 「ざっす!失礼しまーす」 お前こそ担任のくせに!と言い返したいのをグッと堪えて職員室を足早に出る。 廊下に出ると誰かが扉の横で待っていたようで、顔を確認すると眼鏡が見えた。 「白鳥くん?」 「…おつかれ」 白鳥くんはクールな表情のまま、顔の一部でもある眼鏡を押し上げる。そこからお互い数秒固まった。これってもしかして俺のこと待っててくれた感じ? しかし白鳥くんからは何も言わないので「…よかったらちょっと話する?」と聞くと、素直にコクリと頷いた。

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