「今度はもしや、まずいことでも言った？」 「言ってない」 「明らかに傷付いたみたいな顔してるけど…」 「勘違いだ」 「嘘つけ」 言えよ、と緩く握った拳を白鳥くんの二の腕に押し当てる。軽く。ちょん、と。 白鳥くんはそれだけの事にビクッと驚いた様に目を見開いたが、すぐに元の表情に戻ると慣れた仕草で眼鏡を押し上げる。 「………僕は…やっぱり友人じゃないのか…？」 ボソッと呟くように聞こえた台詞。予想外過ぎる言葉に俺は目を見開いて思わず口元を抑えた――が、抑えきれなかった。 「白鳥くん…！！！」 まさにガバッという擬音がぴったりな勢いで白鳥くんを抱き締める。衝動的に体が動いていたからコーラを持ったままだし、もちろん白鳥くんもお茶の缶を持ったままだ。 突然抱きついてきた俺に「ひっ」と、か細い声を上げた白鳥くんだが、咄嗟にお茶を持った手を体から遠くに伸ばす徹底ぶり。よっぽど汚れたくないらしい。 「なっ、なんだ！すえ、末永！？ど、ど」 白鳥くんが動揺する姿を見るのは珍しい。なんなら初めてかも知れない。末永の最初の所とか声裏返ってるし。 「前から思ってたけど、白鳥くんってめっちゃいい奴だよな！俺は今猛烈に癒されてる！」 どこかでインスパイアされた台詞を言い換えて叫ぶ。白鳥くんの一言でここ最近のどす黒い感情が浄化された気がする。 「そうだよな…白鳥くんと俺は友達だよな！部屋も教室も離れちゃったけど、心は離れてなかったんだな！」 「心って…」 我ながら臭い台詞に白鳥くんが引き気味に呟く。あれ、そこは引いちゃうの？なんでだよ。 「も、もういいだろう。離せ。暑い」 「えー、冷たいなあ…」 こちらを見ようとしないまま俺との体の間に挟まれていた腕で、距離を開けるように押しやられる。 しかし先ほどの台詞もあるし、本気で嫌がっているようには見えない。 テンションの上がっている俺は悪ノリで、白鳥くんの腕を無視して頭をぐりぐりと擦り付けた。 「久々なんだしもっと仲良くしようぜ〜白鳥くん〜」 「わっ、や、やめっ…やめろ…！末なっ」 「白鳥くんがF組じゃなけりゃ、もっと頻繁に会いに行けんのになあ」 「…まあ…階も違うし、端と端だからな」 「だろー？でも昼休憩なら全然…そういや藤白もF組だったか。つか、あいつ普通に15分休憩の時も来たりすんだよな。そう考えたらすげえなあいつ」 「……今、藤白って言ったか？」 「言ったけど…あ！そういや白鳥くんクラス一緒だよな。さっき言った最近友達？に？なったと俺は思ってるんだけど、織田とばっか話ししてる藤白悠真。知ってる？」 「ッ知ってるも何も…あんな奴と友達！？末永、悪いことは言わない。あいつと仲良くなるなんてやめておけ！」