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08
俺に抱きつかれて居心地悪そうにしていた白鳥くんだったのに、突然目を見開いて大きな声を上げるので驚いた。
「お、…どうしたんだよ突然」
「あいつはロクな奴じゃない!なんでまた藤白なんか…末永だけじゃない。織田にも忠告してほしいくらいだ。部屋にあげるのだけは絶対にやめた方がいい」
「ちょっと待てよ忠告って…藤白ってそんな問題ありな奴なの?」
「!……ああ…そうか。そうだな。知らなくて当然だ。あいつは、あんな人の良さそうな顔をして…部屋で……ッ…!」
余程、嫌な思い出でもあるのか唇を噛み締めて白い肌を赤く染める。
険しい表情からして照れではなく怒りで赤くなってるみたいだ。
「し、白鳥くん…大丈夫か…?藤白に、なんか嫌なことされたの?」
豹変した白鳥くんに戸惑いつつも、それ以上に心配になってきた。
一体部屋で何をされたんだ。
こんなに目尻を釣り上げて、顔を赤くさせるほど腹立たしく嫌なことって…
想像したくないけど、もしや…お、襲――
「…末永?末永だよな。何やってんだ、そんなところで」
恐ろしい想像をしそうになった俺だったが、背後から名前を呼ばれて不埒な想像は掻き消された。
振り向けば少し遠く離れた位置に、バッドタイミングでユニフォーム姿に身を包んだ藤白が手を振っている。
「!…まさかの藤白」
「藤白!?」
白鳥くんが俺越しに藤白を視界に入れて、さらに表情を曇らせる。苦虫を噛み潰したような顔と形容したいが、いかんせん苦虫なんて口に入れたことがない。眼鏡の上の眉間にこれでもかと皺が刻まれる。
「白鳥も一緒?2人仲良かったのか?」
「おー、まあな。1年の時同室だった。藤白こそこんなとこでどうしたんだよ。部活は?」
「してるよ。スポドリ忘れたから買いに来た。この前も忘れて部活やってて、あんなことになったから。今日は早めに水分補給」
「マジ?んなの熱中症になるに決まってるだろ。初夏もいいところだぞ…気を付けろよ」
呆れた。そりゃ倒れもするわ。天然というか忘れっぽいというか、命に関わるドジやらかしてんな。
「帰る」
俺が藤白と会話を交わしている横で、突然白鳥くんが立ち上がった。
「え!?帰んの?」
「末永、また」
白鳥くんは短い言葉でそう告げると、カバンを肩に掛けてさっさと寮の方へ歩いて行ってしまった。去り際にキッと藤白を睨み付けていたが、当の本人は思い当たる節がないのか不思議そうな顔をしている。
かなり気になる情報だけ残されて気になりまくりなんですけど…後を追うべきか、と腰を浮かす。
「末永」
そんな俺の肩に手を掛けて、藤白は白い歯を見せて万人ウケしそうな笑みを浮かべた。
「今日結局なに作るんだ?すごい楽しみにしてる」
「あ」
藤白の言葉に思い出す。
今日の晩御飯に藤白が来る。休憩時間に話していたアレだ。善は急げみたいなノリで今日になったんだ。
4人分を用意することを計算して、俺は仕方なく白鳥くんの追跡を断念した。
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