155 / 166

08

俺に抱きつかれて居心地悪そうにしていた白鳥くんだったのに、突然目を見開いて大きな声を上げるので驚いた。 「お、…どうしたんだよ突然」 「あいつはロクな奴じゃない!なんでまた藤白なんか…末永だけじゃない。織田にも忠告してほしいくらいだ。部屋にあげるのだけは絶対にやめた方がいい」 「ちょっと待てよ忠告って…藤白ってそんな問題ありな奴なの?」 「!……ああ…そうか。そうだな。知らなくて当然だ。あいつは、あんな人の良さそうな顔をして…部屋で……ッ…!」 余程、嫌な思い出でもあるのか唇を噛み締めて白い肌を赤く染める。 険しい表情からして照れではなく怒りで赤くなってるみたいだ。 「し、白鳥くん…大丈夫か…?藤白に、なんか嫌なことされたの?」 豹変した白鳥くんに戸惑いつつも、それ以上に心配になってきた。 一体部屋で何をされたんだ。 こんなに目尻を釣り上げて、顔を赤くさせるほど腹立たしく嫌なことって… 想像したくないけど、もしや…お、襲―― 「…末永?末永だよな。何やってんだ、そんなところで」 恐ろしい想像をしそうになった俺だったが、背後から名前を呼ばれて不埒な想像は掻き消された。 振り向けば少し遠く離れた位置に、バッドタイミングでユニフォーム姿に身を包んだ藤白が手を振っている。 「!…まさかの藤白」 「藤白!?」 白鳥くんが俺越しに藤白を視界に入れて、さらに表情を曇らせる。苦虫を噛み潰したような顔と形容したいが、いかんせん苦虫なんて口に入れたことがない。眼鏡の上の眉間にこれでもかと皺が刻まれる。 「白鳥も一緒?2人仲良かったのか?」 「おー、まあな。1年の時同室だった。藤白こそこんなとこでどうしたんだよ。部活は?」 「してるよ。スポドリ忘れたから買いに来た。この前も忘れて部活やってて、あんなことになったから。今日は早めに水分補給」 「マジ?んなの熱中症になるに決まってるだろ。初夏もいいところだぞ…気を付けろよ」 呆れた。そりゃ倒れもするわ。天然というか忘れっぽいというか、命に関わるドジやらかしてんな。 「帰る」 俺が藤白と会話を交わしている横で、突然白鳥くんが立ち上がった。 「え!?帰んの?」 「末永、また」 白鳥くんは短い言葉でそう告げると、カバンを肩に掛けてさっさと寮の方へ歩いて行ってしまった。去り際にキッと藤白を睨み付けていたが、当の本人は思い当たる節がないのか不思議そうな顔をしている。 かなり気になる情報だけ残されて気になりまくりなんですけど…後を追うべきか、と腰を浮かす。 「末永」 そんな俺の肩に手を掛けて、藤白は白い歯を見せて万人ウケしそうな笑みを浮かべた。 「今日結局なに作るんだ?すごい楽しみにしてる」 「あ」 藤白の言葉に思い出す。 今日の晩御飯に藤白が来る。休憩時間に話していたアレだ。善は急げみたいなノリで今日になったんだ。 4人分を用意することを計算して、俺は仕方なく白鳥くんの追跡を断念した。

ともだちにシェアしよう!