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俺は未だかつてこれほどまでにフルーツと生クリームのたっぷり入ったロールケーキを隅から隅まで眺めたことがあっただろうか。
しかも普通のロールケーキなんかじゃないぞ。プレミアムとかいう明らかにワンランク上の肩書きを持ったスペシャルなスイーツだ。
そして、少なくとも30分は眺めたであろう俺が出す答えは一つしかない。
否。NO。初めての経験です、だ。
「気持ち悪」
ソファーに座ってただ一心に目の前のテーブルに置いてある太めにワンカットされたロールケーキを見つめていた俺に、真横から飛んできたのはシンプルな苦情。
苦情の相手は見なくても分かる。
相変わらず野生的なボクサーパンツに濡れた髪を拭くためのタオルを首に掛けた織田だ。色白でキメの細かそうな肌なのに、想像以上に筋肉のついた腹筋はもう見慣れてしまった。
織田は俺が数時間前まで「藤白に言われるのでは…」と怯えていた言葉を躊躇うことなく投げ付けて足を止めた。
「……お前さあ…それ絶対さっきまでずーーーと心の中で思ってた事だろ。ここまで我慢できたんだから最後まで我慢しろよ」
「ソレ。いつまで大事に見つめてんだよ。さっさと食え気持ち悪い」
「我慢してたぶん気持ち悪いが溢れてますけど。そろそろ俺にだって人の心を持ってることに気付いて欲しいんですけど」
「きも」
「変化球打てとは言ってねーよ。略したからってダメージが少なくなることはねえからな」
久しぶりに交わした織田との長文の会話がこれとは。
再びガシガシと乱暴に髪の毛を拭きながら、織田は俺から離れて冷蔵庫の方へ歩いていく。
バコッという音がしたので多分お茶でも飲んでるんだろうけど、俺は変わらず目の前のケーキに視線を注いでいた。
美味そう。つか絶対美味い。
でも俺はこれを食っていいのか?問題ないのか?
だってこれを食べてしまうということは、藤白の口止め料とやらを受け取ってしまうことになるわけで、それは律の親友を名乗る俺からしたら非常に…
「まずいよなあ」
頭を抱えた。
律と藤白が部屋を後にしてから俺はひたすらこの状態だった。
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