4 / 9
第4話
「俺と祐介……沖さんと俺は、本物の恋人同士だよ」
喫煙所に入ると南雲はなんの前置きもせず語り始めた。
「昨日ここでやってたのは、沖さんからのセクハラでもないし、緊急事態の人工呼吸でもないし、演劇やコントの練習してた訳でもないし」
敏樹が無言のまま頷くと、南雲はポケットを探りながら言葉を続ける。
「あと沖さんも男だし俺も男だよ。つまりはゲイが職場内でいちゃついてた、って事なんだけど。そんな不謹慎で不道徳な場面を目にしても、きみって結構落ち着いてるね」
カチッ、と南雲は煙草に火を付けた。噂話を広めなかっただけでなく、同性愛に驚かない事もあって敏樹を大人扱いしたのか。
でも敏樹はまだ子供だ。そんな敏樹がふたりの関係を理解した理由 は……。
「自分も男ですが、男性の恋人が居ますから」
さっきの真似をして、前置きをせずに敏樹は南雲に告げた。樋口と敏樹のキスシーンを思い浮かべながら。南雲はライターと煙草を手にしたまま、きょとん、としていたが、呆然と喋り始めた。
「きみもゲイだったのかぁ……だから、バカ騒ぎしないでくれたのか。職場の偶然に感謝しなきゃ」
驚いているのか、からかわれてると思っているのか。
「本当の事ですから」
拳をぎゅっと握りしめ、真剣に応える敏樹に、
「わかってるよ。そんな冗談言うひとには見えないし」
煙草に火を付けて、南雲は苦笑する。
「だからあなたと沖さんが恋愛関係でも、自分はここの職場が嫌いでは無いし……もちろんあなたや沖さんを変な目で見たりもしません」
「それはありがとう。じゃあさ、あなた、って呼びかた止めてよ。崇でいいよ、敏樹くん」
名前で呼び合おうと? いきなりの友達発言に、敏樹は戸惑う。
「南雲さん、でもいいですか」
「もちろんそれでもいいよ」
おずおずと尋ねる敏樹に、南雲は落ち着いて応える。
「でも恋人ってきっぱりと言い切る位だし、敏樹くんは真面目な恋愛してそうだけど?」
「それは南雲さんも一緒でしょう? 沖さんとは本物の恋人同士、って言ったじゃないですか」
南雲からの問いを遮るように敏樹は反論する。だからこそただの通りすがりの目撃者だけの敏樹に、堂々とふたりの関係をカミングアウトしているのだろう。
「う〜ん……さっきはそんな風に言っちゃったが。不倫関係になってからは、本気の恋かセフレか分かんなくなってきてさ」
煙草を指先に挟んだ南雲が、ふうっ、と煙を吐く。
「あれっ、敏樹くんは知らなかった? 沖さんが結婚してるって」
返す言葉を失い唖然としている敏樹に、南雲はあっさりと告げた。
ともだちにシェアしよう!