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第4話

「俺と祐介……沖さんと俺は、本物の恋人同士だよ」 喫煙所に入ると南雲はなんの前置きもせず語り始めた。 「昨日ここでやってたのは、沖さんからのセクハラでもないし、緊急事態の人工呼吸でもないし、演劇やコントの練習してた訳でもないし」 敏樹が無言のまま頷くと、南雲はポケットを探りながら言葉を続ける。 「あと沖さんも男だし俺も男だよ。つまりはゲイが職場内でいちゃついてた、って事なんだけど。そんな不謹慎で不道徳な場面を目にしても、きみって結構落ち着いてるね」 カチッ、と南雲は煙草に火を付けた。噂話を広めなかっただけでなく、同性愛に驚かない事もあって敏樹を大人扱いしたのか。 でも敏樹はまだ子供だ。そんな敏樹がふたりの関係を理解した理由(わけ)は……。 「自分も男ですが、男性の恋人が居ますから」 さっきの真似をして、前置きをせずに敏樹は南雲に告げた。樋口と敏樹のキスシーンを思い浮かべながら。南雲はライターと煙草を手にしたまま、きょとん、としていたが、呆然と喋り始めた。 「きみもゲイだったのかぁ……だから、バカ騒ぎしないでくれたのか。職場の偶然に感謝しなきゃ」 驚いているのか、からかわれてると思っているのか。 「本当の事ですから」 拳をぎゅっと握りしめ、真剣に応える敏樹に、 「わかってるよ。そんな冗談言うひとには見えないし」 煙草に火を付けて、南雲は苦笑する。 「だからあなたと沖さんが恋愛関係でも、自分はここの職場が嫌いでは無いし……もちろんあなたや沖さんを変な目で見たりもしません」 「それはありがとう。じゃあさ、あなた、って呼びかた止めてよ。崇でいいよ、敏樹くん」 名前で呼び合おうと? いきなりの友達発言に、敏樹は戸惑う。 「南雲さん、でもいいですか」 「もちろんそれでもいいよ」 おずおずと尋ねる敏樹に、南雲は落ち着いて応える。 「でも恋人ってきっぱりと言い切る位だし、敏樹くんは真面目な恋愛してそうだけど?」 「それは南雲さんも一緒でしょう? 沖さんとは本物の恋人同士、って言ったじゃないですか」 南雲からの問いを遮るように敏樹は反論する。だからこそただの通りすがりの目撃者だけの敏樹に、堂々とふたりの関係をカミングアウトしているのだろう。 「う〜ん……さっきはそんな風に言っちゃったが。不倫関係になってからは、本気の恋かセフレか分かんなくなってきてさ」 煙草を指先に挟んだ南雲が、ふうっ、と煙を吐く。 「あれっ、敏樹くんは知らなかった? 沖さんが結婚してるって」 返す言葉を失い唖然としている敏樹に、南雲はあっさりと告げた。

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