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第6話

 敏樹は、目の前の不倫しているこのひとを悪として見ているわけではない。南雲と沖には、ふたりの事情があるのだろうし。  だけど、女性と結婚している同性愛者、という人物を目の当たりにすると。  かなり前に車内で見つけた、結婚紹介サービス、の通知が忘れられない。樋口は婚活をしたこともあったんだよな。妹からの無理強い、と言っていたが、それをきっぱり断れなかったことは確かだ。  もちろん、樋口が結婚を望んでいる様子なんて無いし。敏樹を大切にしてくれているのも分かる。  だけど、先日の入院したときの日々を思い出すと。  樋口の妹が結婚を焦らせる理由も分かる。もしも兄の傍に居る人物が女性だったら? もっとスムーズに、事は運んでいたのではないか? 会社の人にカミングアウトまでさせてしまったが……本当に大丈夫なのだろうか?  敏樹の脳内に、ぐるぐると不安が湧き出してきて。  見舞いに来ていた事務の女性と仲良さげに喋る樋口の声も脳内に蘇る。社会人としての付き合いなのは本当だろうが。同性愛者といっても、樋口は女性を嫌っている訳ではない。 (樋口さんは……結婚しようと思えば出来る男性なんだ)    それは頭の片隅では既に分かっていたはずだが。これまでのふたりの出来事を整理したら、はっきり事実として確認出来て。敏樹の頭の中心から心の奥底までを掻き乱した。  樋口が敏樹を最も大切にしてくれていることはよく分かっていた。「社会人として結婚する」なんて敏樹を捨てたりもしないし、「結婚はするが一番大切なのはきみだから」なんて敏樹を愛人にすることも出来ないだろう。  だからこそ、敏樹も樋口を大切にしたかった。樋口の負担になんてなりたくはなかった。それなら、敏樹から別れを切り出すか? そんな自分自身からの疑問にも、強く首を横に振った。

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