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第7話
様々なことを考えながら、一言も返せずに黙っている敏樹を、南雲はしばらく見つめていたが。
「でもさ、きみの恋人は結婚してないんでしょ?」
首を傾げた南雲に、敏樹は無言のまま頷く。
「いつかは結婚したいな、とでもきみに言ってくるの?」
さらに重ねられた質問に、敏樹は勢い良く首を横に振った。
「じゃあさ、余計な心配せずともいいんじゃない?」
敏樹のオーバーリアクションに笑いながら、南雲は笑って話を終わらせる。
「それはっ……分かってますが」
それだけ答えて、また口を噤んだ敏樹に、
「まぁ、不倫してる奴に『不倫の心配なんてするな』って言われても、説得力はないか」
そう南雲は笑う。感情のよく分からない笑顔で。
「南雲さんは……なんで、恋愛の相手が結婚しても……そのまま付き合おう、って思ったんですか」
何も言わないままでも失礼だ、と思い、しどろもどろに問い掛けると。
「気が付いたら祐介が結婚してたから、なんかそのまま関係を続けてる」
また南雲はあっさりと答えた。
「何も言われなかったんですか?」
驚きから大声を出した敏樹に、南雲はまた微笑んで、
「祐介ってさ、薬指に指輪してないじゃん? 式とかも挙げてないし。会社の上司が祐介に祝いの言葉を投げてるの目にして……まぁ、そのときはびっくりしたけど」
敏樹との会話に慣れてきたのか、南雲は沖の事を「祐介」と自然と名前で呼んでいる。
「そのあとは、何も言えなくてごめん、とか祐介からも謝られて、別れようか、とかも言われたけど……」
心臓が高鳴った。やっぱり別れ話も出てたんだ。すると、今度は南雲が黙り込んだ。
「なんで、別れなかったんですか?」
今度ははっきりと、敏樹は疑問を口にした。
「それは……やっぱり、俺が祐介を好きだったからかなぁ。あぁ、いまでも好きだよ」
やはり南雲はあっさりと答えるが。その声は、どこかに想いを巡らせている様にも聞こえた。
(南雲さんと同じように、樋口さんの事をずっと好きでいたら……もし、樋口さんが結婚しても、自分は恋人のままで居られるのだろうか)
自分の気持ちは変わらない。それははっきりと言える。けれども、樋口の気持ちはどうなるのだろう? 当たり前の既婚者のように、家族を大切にするのか? 敏樹ひとりを大切にしたまま、家族にも笑い掛けるのか?
「沖さんも……南雲さんの事を、好きなんでしょう?」
呟くように問い掛けた。敏樹と樋口の関係を、南雲と沖に被らせて。
「それは本人じゃなきゃ分からないな」
南雲は応える。さっきまでとは違う、きっぱりとした口調で。
「じゃあ、何で一緒に居られるんですか?」
ずっと恋人で居たから、流されるように愛人となったのか? そして、社内の喫煙室でキスを交わしていたのか? 疑問が溢れて、思わず南雲を睨み付けた。
「それはやっぱり、俺が祐介を好きだから。あぁ、ごめんごめん。この答えだと、さっきの繰り返しだね」
敏樹の鋭い問い掛けにも気にせず、南雲は緩い調子で応える。
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