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第8話

「軽蔑した? 俺と祐介のこと」  いきなり睨み付けられたからか、真面目な口調で南雲は敏樹に尋ねる。 「自分は、不倫が悪とは思ってませんから」  それは事実だからはっきりと告げたが。 「これから自分が不倫する可能性があるから、そう思ってるの?」  嫌味でも、からかいでも、非難でもない、南雲の問い掛けにははっきりと反論は出来ず。 「それは……そうかもしれません。樋口さんは……婚活もしてるし」  敏樹の口から出た「婚活」という単語に、南雲に初めて驚きの表情が浮かんだ。 「その婚活はっ、樋口さんの妹さんが無理強いしていて、樋口さんは断るつもりだ、って言ってるんですけど……」  慌てて敏樹は身体を前に乗り出し、机の上のコップが倒れた。 「きみの恋人、ひぐちさん、って言うんだね」  おっとりと微笑みながら南雲はおしぼりで机を拭く。敏樹を落ち着かせるように。そんな大人っぽい対応に恥ずかしくなり、敏樹は姿勢を正したあと俯いて、ジーンズに零れたドリンクをハンカチで拭いた。 「じゃあ敏樹くんは、ひぐちさんが婚活してるから不安で、恋人が既に結婚してる俺に色々とアドバイスを求めた、って事だったのか」  新しいドリンクを注文し、おしぼりも交換して貰うと、南雲は話をまとめ始めた。 「でも、ひぐちさんが婚活を断ってるなら、きみ達は普通の仲良しカップルじゃないか」  からかい交じりの笑いも含めて。しかし敏樹は、それに笑顔で応えることが出来なかった。 「南雲さんがそう言ってくれても……難しいんです」   なにが? と首を傾げた南雲の顔から目を逸らす。 「彼の言葉……樋口さんの言動を、心から信じることが」  敏樹の言葉に、しばらく南雲は黙り込んだ。  恋人に対して疑い深い敏樹に、気分を害したのか?  南雲は心から沖を好きで、だから一緒に居るのに。たとえ沖が南雲を好きかは分からずとも。  ふうっ、と南雲は煙草の煙を吹きだすと。 「まぁ、それは誰だって難しいよな……」  ゆっくりと呟いた。 「南雲さんも……沖さんを信じてはいないんですか?」  敏樹がぽつり、と尋ねると。南雲は、あっははは、と大声で笑い始めた。 「信じてるわけないだろ。なんにも言わないまま知らない女としっかり結婚してて、ゲイの相手の俺とははっきり愛人契約も結ばないまま、セックスの関係をずるずる続けてるような奴、信じられるかよ」  自棄(やけ)になって笑っているのか? それとも……自身の沖への感情を胡麻化すためか? 南雲は笑いながら目元を拭うと。ドリンクを呑み干して頬杖をつき、上目遣いで敏樹に視線を投げてきた。その瞳の中にはもう笑いは無く、どこか切なそうに見えた。 「じゃあ、なんで好きなんですか? ……って訊くかい?」  南雲からの問いに、敏樹は小さく首を横に振った。 「いえ……それは自分も、なんとなく分かるので」  その答えに、また南雲は笑った。今度は穏やかな笑いだったので、敏樹もつられて笑った。
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