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第3話

「物騒な話だな。まぁ、あり得なくはないか」 和也様が、僕の手の甲の火傷の痕に気付く。 「笑がいいなら」 和也様がそうおっしゃて。 「笑、いいよね!?」 若様に聞かれる。 断る理由はないから、こくんと、頷いた。 夜中に旅立たれると、若様。お夕飯を急いで準備した。質素で、簡単なものしか作れないけど、若様や、和也様は何も言わず召し上がって下さった。 明日には、若様は出征される。 恐らく、死出の旅となるお覚悟を持って。 「笑は、一緒に食べないの?」 「あとで頂きます。それに、お湯殿の準備もありますし」 下働きの分際で、若様とご一緒に、なんて許されるはずない。身分をちゃんとわきまえないと。 和也様が、ご近所の方に、薪運びのお手伝いと、火起こしを頼んで下さったお陰で、早く、お風呂を沸かす事が出来た。 「若様、お湯殿のご準備整いました」 居間に呼びに行くと、くすくすと若様。必死で笑いを堪えていらっしゃる。 「ごめん、笑。本当に面白い子だね。顔が、すすだらけだよ」 「すみません、洗ってきます」 「いいよ」 若様は、僕に近付くと、なんと、その手で、顔を拭って下さったのだ。 「若様!お手が汚れます」 びっくりするやら、驚くやらで、動けずにいると、唇に、何か、温かなものが触れた。 「わ、わ、わ、若様、な、な、何を!」 それが、若様の口唇だと気付くまで、然程、時間は掛からず。 「笑、一夜だけでいい、褥を共にして欲しい」 一緒に酒を嗜まれていた和也様が、若様の言葉に、思わず、吹き出しそうになった。 「雅也、お前な・・・宮子さんだけでは満足しないのか?下働きのしかも、男だぞ」 和也様は呆れていた。 褥を共にする。 その意味を知らない訳じゃない。 旦那様は、奥様だけでは飽きたらず、女中さんや、囲われている女の方と、昼間から、広間のソファーの上で裸になり、睦み事をされている。喘ぎ声や、嬌声が、お屋敷中に響き、最初こそ耳を塞いでいたけど、今は、日常化してて。 この前は、宮子様にお届け物かあり、お部屋を訪ねると、裸の旦那様の下に何も身に付けていない宮子様がいらっしゃってーー余りの衝撃でその場に崩れ落ちた僕に、彼女は、妖艶に微笑んでいらっしゃった。 「宮子は、父の子を孕んでいる。河西の家に来る前から宮子は、父の妾だ」 「・・・」 若様はすべて、ご存知だった。 和也様は、大きなため息を吐かれていた。 「宮子さん、まだ、十六だろ?笑と同い年なのに。へぇーー」 「祝言の後、父に絶縁と、宮子に三下り半を渡してきた。笑は、私を決して裏切らない。自分がどんな酷い事をされても、相手を庇う優しさを持っている。だからこそ、笑にひかれたのかもしれない」

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